NY愛に溢れたウディ・アレンの新作が米国で上映されない理由 「レイニー・デイ・イン・ニューヨーク」 

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』 (C) 2019 Gravier Productions, Inc.(配給:ロングライド)


実は、この小旅行は、ジャーナリスト志望のアシュレーが、ニューヨークで有名な映画監督へのインタビューの機会を得たことがきっかけで、計画されていた。インタビューは昼の1時間、その後にランチの約束をしていた2人だったが、アシュレーが映画監督から試写に誘われたことで、予定は大きく狂うことになる。

ランチの約束を反故にされたギャツビーは、1人で街を歩いていると、ばったり知人に会い、旧友がグリニッジ・ヴィレッジで学生映画を撮影していることを知らされる。暇を持て余していたギャツビーは、その現場を見学に出かけ、成り行きで映画に出演することになる。恋人役として競演する相手は、昔のガールフレンドの妹、チャン(セレーナ・ゴメス)だった……。

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Photography by Jessica Miglio(C)2019 Gravier Productions, Inc.

ニューヨークでのわずか2日間の物語なのだが、その間にギャツビーとアシュレーにはさまざまな出来事が降りかかる。いくら狭い街だからと言っても、これだけ偶然に事は起きないだろうと、思わず半畳を入れたくなるほどだ。とにかく、その度すれ違う2人だが、最終的にはこの週末デート旅行は意外な結末を迎える。

この間、前述したように、ニューヨークのさまざまな有名スポットが登場する。特にアレン自身も常連で、自らクラリネットの演奏をしたりもするカーライル・ホテルのベメルマンズ・バーのシーンは、物語の重要な展開点ともなる。紆余曲折の末、夜更けのバーでようやく落ち合った2人に、運命の扉が叩かれることになる。

このセレブが集うことで知られるバーについては、「カーライル ニューヨークが恋したホテル」(2018年)というドキュメンタリーに詳しいので、ご興味あれば。

かつて「マンハッタン」で、ニューヨークの風景をジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」とともに、モノクロ映像のなかに美しく再現したアレン監督だが、この作品でも、鮮やかな色彩のなかでそれを展開している。

撮影監督は、ベルナルド・ベルトリッチ監督と組んで「暗殺の森」(1970年)や「ラストタンゴ・イン・パリ」(1972年)などの名作を世に送り出したイタリアのヴィットリオ・ストラーロ。「カフェ・ソサエティ」「女と男の観覧車」に続き、3作目となるコンビだが、アレン監督がこの作品でオマージュするニューヨークの姿が、印象的な雨のシーンを交えながら描かれていく。「光の魔術師」とも呼ばれるストラーロのつくり出す映像も、この作品の見どころのひとつかもしれない。

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Photography by Jessica Miglio(C)2019 Gravier Productions, Inc.
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文=稲垣伸寿

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