ビジネス

2020.07.03 07:00

キーワードは「ナラティブ」。PR TIMES山口拓己代表に聞く、激変する企業発信のこれから


よく、PR TIMESの原点というか、プレスリリースの原点としてご紹介させていただいているのが、1906年のアトランティックシティの列車事故です。(事故を起こした鉄道会社の親会社のパブリック・リレーションズの専門家、アイビー・リーが事故現場で会社を説得、ジャーナリストに声明を発表させて最初のプレスリリースが発表された)

たとえ良くないことであっても、受け手にとって有益な情報提供を追求することが、プレスリリースでは大切だと思っています。それはプレスリリースに限らず、常日頃の情報発信やコミュニケーションでも大事なことだと思っているんですね。

PR TIMES山口拓己代表

例えば今どこの会社でも採用面接をしていますが、面接を担当する社員だけがその会社を代表するというわけではありません。弊社では社員もフリーランスの方も含め、来社された方からは全員が見える執務スペースになっています。

プレスリリースもそうで、自分たちがいいところだけを切り取るのではなくて、相手が有益だと思うところをしっかりと伝えることが大切で、それは組織の中でのコミュニケーションにおいても重要だと思っています。

「HOW」や「WHY」の部分で差別化


──企業発信のコミュニケーションはどう変わってきていると思いますか。

他の「誰か」や「他社」と差別化するというのはすごく難しいことです。企業活動としても、人としてのあり方としても難しい。個人としては、「サッカーをやる」とか「勉強ができる」といった要素ではなかなか差別化できない。その人にとっては「なぜやるか」「どうやるか」という点が、他の人が真似することができないところなのです。

プレスリリースも同じだと思っています。例えばPR会社の理念として、「クライアントファースト」と謳っている企業はすごく多いです。でも私たちは場合によっては真逆の「パブリックファースト」と言っています。プレスリリースサービスというものを表層的に真似ることはできると思いますが、私たちがPR TIMESをどういう存在だと考え、社会にどう位置付けているのかは、これこそが独自のもので、どうやっても移植できないことなのです。

会社の中で「どうやって実現したか」という「HOW」の部分や「なぜやるか」という「WHY」の部分で差別化することによって、より企業の発信も差別化できるようになると考えています。

ナラティブで語ることは「なぜやるか」とか「自分たちのビジネスは社会にとって何なのか」が突き詰められることだと思うんですよね。そういう会社や社員が増えるほど、社会にとって多くの人が心を揺さぶられるようなニュースが発信されるようになると思うんですよね。

まだまだ、実践されている企業はごく一部だと思っています。国内には約300万の企業が存在し、インターネットを使ったマーケティングやリクルーティングをおこなっている会社は数十万社と言われています。私たちのお客様は3万5000社(1月取材当時。現在は4万社超)、そこからしてもまだまだインターネットを使ったPRをやっていらっしゃる会社は多くないと思うんですよね。

自分の企業活動をニュースで発信するところまではいっていないし、さらに私たちが目指している、働いている人一人ひとりが自分の仕事を発信するまではまだ遠いかなと。10年タームで見ると、今が分岐点となるタイミングなのかなと思います。
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文=林亜季、写真=小田駿一

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