一方、同じ会議のなかで、ある男性の事業者から「いまは、東京方面のお客様には来てほしくない」という発言があった。ましてやインバウンドなんて論外だということだった。その男性の意見は、ある意味で多くの人の率直な想いだろうとも思う。しかし、私は少なくとも「観光」に携わる事業者からそんな言葉は聞きたくなかった。
先ほどの高山の旅館の女将にも、コロナ対策としてリスクのあるお客様は避けたいという想いもあるかもしれない。でも女将の口からはそのようなことが発せられることは一切なかった。女将は信じているのだ。自分の宿に来てくれるお客様は、もし自身の健康に不安があるならば、来訪を自らの判断で取りやめる理性を持ち得たお客様であると。
観光は経済循環を生む「出会いの場」
私は、これからの観光に必要なのは、まさにそういった「信頼」だと思う。これはEU(欧州連合)が示し、UNWTO(国連世界観光機構)が定めた観光の再開への指針にも使われている言葉でもある。そして、これからの「安心、安全」を担保した新しい「観光」のために必要な「信頼」は、観光事業者はもとより、旅する側にも課せられている。そしてあらたな観光産業を推進しようとする私たちにもだ。
今後、政府が行う大規模な「GO To キャンペーン」の行方はまだ定かではないけれど、さまざまな自治体や観光事業者の方々の努力によって国内旅行の復活は進むはずだ。そして同時にインバウンドに関する発信や受け入れも選択的に始まって行くことだろう。
そんなとき、自国が、自国の強みを活かしてアピールすることは、その役割を他国が必要としたときに、そのノウハウを自ら差し出し、循環できるようにする多様性の活かし合いを実行する「信頼関係」を指し示すことでもあるはずだ。
それができるようになってはじめて、本物の「ダイバーシティ(多様性)」となり、そこに持続的な経済循環も生まれていく。そのための「出会いの場」が、まさに「観光産業」だと、私は思うのだ。そんな観光へと向き合うとき、「文句」や「陳情」や「人に頼る」ばかりではなく、「こんなことをしてみよう、一緒にしよう、笑顔で」と自らの責任で発言する人でありたいと、私は思う。
連載 : Enjoy the GAP! -日本を世界に伝える旅
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