前回の記事では、UAEの王族が率先して講じる新型コロナウイルス感染症対策と、その要として「大量検査」を可能にする大規模ラボの設立について紹介した(前回の記事はこちら)。
6月9日時点で、UAEはすでに人口約990万人のうちおよそ4分の1以上に新型コロナウイルスの検査を実施。新しい機器の導入で検査スピードをさらにアップさせている。人口当たりのPCR検査数はこれまで1位だった人口36万人のアイスランドを抜いてトップとなった。
最先端技術の積極的導入、徹底した情報管理でポストコロナ時代の最先端をひた走るUAEは、元々効率的な政府運営のためのインフラが充実していたが、新型コロナを機に追跡アプリをいち早く導入するなど、医療分野における電子化も一気に加速。先月開催されたリモート内閣会議では、医療だけでなく経済や食糧安全などの分野でもポストコロナ時代のハイテク国家への道が示された。
UAEの生活とテクノロジーは切っても切れない関係だ。そして、生活のさまざまな場面で収集された情報は、政府が一元的に管理、紐付けできる。プライバシー侵害を懸念する声もあるが、実は快適で安全な社会の基盤にもなっている。今回は、監視管理されたUAEの生活と中国との気になる関係について紹介したい。
外出がなぜかばれる?
UAEでは自粛が呼びかけられている中、閉鎖中のビーチで遊んでいた欧州人や自主隔離期間中にも関わらず外出した人たちは、ことごとく逮捕された。この多くは、UAEのような社会に慣れていない、欧米人ではないかと想像している。ビーチにいた欧州人はその様子をインスタグラムに投稿してばれたのだが、なぜ自粛隔離中の人々の外出がばれたのか。さまざまな憶測を呼んでいる。
筆者がUAEに住み始めたころは、自宅が監視されていないか隅々までカメラやマイクがないかチェックした。ただ、そういったものではなく、携帯電話や衛星を通じて動向を把握、もしくは記録されていると推測している。
UAEではIDの携帯が必須で、電話番号も個人情報を紐づけするための重要なツールとなる。携帯電話、ヘルスサービス、銀行などの人々の生活に密着する産業は政府系企業が担っており、そういった企業のトップは各首長国の王族が占める。IDや電話番号を提示すれば、すぐに人物が特定される。非常に便利な一方で、「悪いことはできない」と実感する場面でもある。友人のUAE人は「それが安心につながっている」と言う。
4月後半には、MBZ、つまり「ムハンマド・ビン・ザーイド・アブダビ首長国皇太子」から筆者を含めたUAEの市民と住民にSMSが届いた。ラマダーン(断食月)開始を祝う言葉と共に、「親愛なる市民、住民の皆へ。みなの忍耐力、回復力、親切さに感謝する。必要な予防措置を実践し続けることにより大切な家族、友人、社会を守ることができ、この危機を克服することができる。ラマダンカリーム(恵みの多いラマダーンおめでとう)」という内容だった。
UAEで生活することは、個人情報の多くを政府に握られるということになるが、それによって治安を維持し、快適で便利な安定した社会を築いていることも確かだ。政府が決めた「リミット」さえ超えなければ、西洋化された社会の中で「自由で快適な生活」を送ることができるので、息苦しさは感じない。