ただし、そうして集められた情報がどのように使われるのか、不安を感じないわけではない。冒頭述べたように、人口の4分の1がすでに新型コロナウイルスのPCR検査を受け、筆者も検査機会を提供されている。しかし、いままでのところ筆者は検査を受けていない。既に政府が所持している自分の全データに、検査で採取される血液や粘膜、そして遺伝子情報が追加で紐付けされるのではないか、という不安があるからだ。
6月初めには、英フィナンシャル・タイムズ紙が「在UAEの米国大使館がUAEから検査機会を提供されたが、自国の外交官の情報が中国政府の手に渡ることを懸念してこの申し出を丁重に断った」と報じている。
2019年12月、アブダビに面するビーチの様子(筆者撮影)
存在感を増す中国
トップダウンによる国家体制と、市民への監視管理という点で、UAEと親和性が高く、存在感を増しているのが中国だ。
近年のUAEと中国の関係強化には目を見張るものがある。2国間の貿易額は着実に増加し、中国企業がUAEの7首長国全土に拠点を構えるなど経済での結びつきが強まっているだけでなく、両国首脳の往来も目立つ。
中国と一部のイスラム諸国の間では、イスラム教徒が多く住む新疆ウイグル自治区に対する中国政府の政策をめぐって度々問題となっているが、2019年の中国訪問でムハンマド・アブダビ首長国皇太子は中国を支持する旨を発言した。イスラム圏外の国も批判を強めるこの政策をめぐって、UAEが中国を支持する姿勢を示したことは、大変興味深い動きだ。
なお、ムハンマド皇太子は、この訪中時に、両国の大学間での共同研究事業を含む、科学・技術分野における覚書も締結している。中国は、2006年から2020年までに「世界トップレベルの科学技術力を持つイノベーション型国家」になることを掲げており、同じく科学の発展により国家の成長を目指すUAEと中国は、お互いをいいパートナーと見なしている。
2国の関係性は、国家が支える民間企業の連携やハイテク分野で顕著に伺える。
例えば、先述の新型コロナウイルスの大量検査体制を支えているのは、中国広東省に本社を抱えるゲノミクス会社BGIとアブダビ拠点の中華系CEO率いる人工知能開発会社Group42だ。アブダビの国家主導型スマートシティに拠点を構える同社は、アブダビ王族とのコネクションがあるといわれ、アブダビ国営石油会社ADNOCと油・ガス産業用のAI製品開発のための合弁会社設立をするなど、UAEと密接な関係にある。