新天地の雰囲気に、良い意味で飲み込まれる
ビジネスパーソンであれば、自らの意思で転職を決意し、働く場所を変えるのが一般的だが、それでも新しい職場に馴染めない人は多い。伊藤は突然、新しい職場に移籍することになったわけだが、当時どんなことを考えていたのだろうか。
「当時は難しさしかなかったですね。それこそ入団したてのルーキーと言いますか、初めて一軍の試合に出たときのような気持ちになりました。結果を求められている中でもう一度プレーできることに、やりがいを感じる部分もありましたが、チームプレーのこともわからないし、チーム内の選手の性格もよくわからない。気が休む暇が全くなかったので、実はめちゃくちゃ痩せたんですよね(笑)」(伊藤)
順位争いが絡んでくる後半戦での移籍。「とにかくチームのために」という思いでプレーする中で、チームのことを勉強し続ける日々。気づけばあっという間に時間が過ぎ、ようやくチームに慣れ始めた頃にはシーズンが終わってしまっていたという。
「すごい迷惑かけたと思う」と振り返る伊藤だが、2年目のシーズンは完投・完封した投手とハグをする「ヒカルの抱擁」がファンの間で話題になるなど、選手間での仲睦まじい姿を数多く目にするようになった。もちろん、一緒に過ごす時間が増えればコミュニケーションの量も増え、自然と仲良くなるだろうが、何か心境の変化があったのか。
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「チームの良いところに、自分も良い意味で巻き込まれて、どんどん良い方向に向かっていったのはありますね。横浜DeNAベイスターズというチームは1試合、1試合に全力を出して楽しんでいる。その空気感に完全に巻き込まれましたね(笑)」
「トレード=ネガティブ」ではない
昨年のシーズン、横浜DeNAベイスターズは春先に10連敗を喫した。当然、負けが込めばチームの雰囲気が悪くなるものだが、このチームは違った。雰囲気が落ちることはなく、常にロッカーの雰囲気は明るかった、という。過去に結果を求めすぎるあまり、「勝たなきゃいけない」と自分を追い込んでしまった伊藤からすれば、あまりに驚きのことだった。
「大体、連敗が始まると、『この試合は絶対に勝たなきゃいけない』といったピリピリした空気感になると思うのですが、毎日雰囲気が変わらなくて。もちろん試合に負けたら反省はするのですが、翌日は何事もなかったかのように、みんな表情が明るいんです。それは初めての経験で、本当に横浜DeNAベイスターズが自分を変えてくれたと思います」(伊藤)
昨年オフの契約更改の場で、「ベイスターズに救われたと思っています」と語った伊藤に対して、球団代表の三原一晃に「いや、お前に救われたんだよ」というやり取りがあった。もちろん、環境を変えずに今いる場所で頑張り続けることで道が開けることもあるが、時には環境を変えることで、良い成果に繋がることもある。
「日本の野球界では、いまだにトレードはネガティブに捉えらる方を多いと思います。僕も最初はそうでした。『オリックスから必要とされなかったんだ』と思いましたけど、そうじゃないんですよね。別のチームに行ったからこそ、気づくことも増えましたし、見える世界も変わりました。だからこそ、トレードされてもきちんと結果を残せる姿を見せられれば、ネガティブに捉えられることもなくなる。どんな環境でも挑戦していき、今後も結果を出し続けていきたい、と思っています」(伊藤)