──今回のジョージ・フロイドさんの死に対して、アメリカの大企業が政治的メッセージを発信しています。日本だと企業が政治的発言をするのはリスクだと思われがちですが、なぜアメリカでは支持されているのでしょうか。
企業は政党でもないですし、ジャーナリストでもないので、純粋に政治的発言をしたくてしているわけではありません。あくまでマーケティング手法の一環としてメッセージを発信しています。
例えば、今回発信している企業の中には黒人の顧客をたくさん抱えているブランドもあります。黒人の顧客に寄り添うために声をあげている企業もあるでしょう。
また、ネットフリックスがツイートしているように、沈黙していること自体が人種差別を助長しているとも言われています。企業として明確に発信する方が結果としてブランディングにつながると判断していると思われます。
世界三大広告祭の一つであるカンヌライオンズが2020年にあげたテーマの一つが、「ポストパーパス、ブランドアカウンタビリティとアクティビズム」です。これはつまり、今までブランドパーパス(企業の存在意義)が重要だと言われた時代が終わりつつあり、企業は発信するメッセージの先のアクションまで求められるようになったということです。
私の解釈では、企業の「本気度」がますます問われているということです。表面上の明るいメッセージだけでなく、顧客に対してメッセージに伴う責任と行動を見せているかが重要です。
2018年に数々の広告賞を受賞したナイキが、「Just Do It」30周年キャンペーンの一環として、元NFL選手コリン・キャパニックの顔写真を交通広告に起用したことも一つのアクションと言えるでしょう。
コリンは2016年の試合直前、人種差別に抗議するため、国歌斉唱中に起立をせずにひざまずいたことでも知られています。彼の行動が物議を醸していたにもかかわらず、ナイキは「信条を持て。たとえそれがすべてを犠牲にすることだとしても」という広告メッセージの顔としてコリンを起用しました。
今回のツイートも、「沈黙を破ろう」と発信するだけではなく自分たちも政治的スタンスを明確にすることで、ポストパーパス時代のマーケティング手法といえるでしょう。
──企業がますます「本気度」を見せなくてはいけない理由はなんでしょうか。
SNSの登場が大きな理由と言われています。今回のジョージ・フロイドさんの殺害される様子が映像で撮影され、拡散されたように、誰でも発信できる時代に企業がどんどん嘘がつけなくなってきています。
真実に対する価値が高まっていく中、どれくらい本気なのか、どれくらい本当のことを発信しているのかを企業は見せていかなければいけなくなりました。