元宗主国・イギリスは将来的に市民権付与も検討
アヘン戦争後からイギリスの統治下に置かれていた香港は、1984年に中英共同宣言により中国へ返還された。この宣言には、返還から50年間は香港の「外交と国防問題以外では高い自治を維持する」と記載されているが、中国政府はこれについて実質的な意味を持たない歴史文書との見解を示している。
中英共同宣言は国連にも登録されているもので、世界各国は今回の中国の行為は、「国際規約違反だ」と主張しているのだ。はじめは「現状を注意深く見守っている」と慎重な対応をしていたイギリス政府も、28日には中国政府に対する制裁を発表した。国家安全法が実際に導入された場合は、英国海外市民旅券(BNO)をもつ香港人に対してビザなし滞在期間を12カ月に延長し、就労や学業申請も認める。
英国海外市民旅券(BNO)とは、香港返還の前に住んでいた香港の人に対して発行され、保有者はビザなしでイギリスに最長6カ月滞在できる。現在、保有者は30万人で290万人が申請する資格を持っており、中国に有能な人材が流れる懸念が生まれる。また、将来的にはBNO保有者にイギリス市民権を付与する意見も上がっている。その一方で、デモの中心となっている若者の多くはBNOを申請できないため、イギリスの対応に批判の声も聞かれる。
マカオのカジノ収入は新型コロナの影響で急減している(Getty Images)
香港と同じく中国の特別行政地区に指定されているマカオは、2009年に国家安全法が制定されている。その内容は、中国政府に対する反逆、独立離脱、転覆の行為またそれらを準備することやスパイ行為も犯罪とみなし規制するというものだ。香港と比べて民主派の活動が活発でないマカオでこの法案を制定し、香港に対して見本をみせ圧力をかけたケースだとされている。実際に、香港の活動家がマカオへの入境を拒否されたこともある。
カジノで莫大な収入を得ているマカオでは、現金支給などで市民に満足度も高く中国政府に対抗する勢力も生まれにくい。それに加えて、この法案の制定による集会の禁止などで、マカオ市民に反発の自己規制がかかっているとも言われている。だが、新型コロナウイルスの影響でマカオのカジノ収入は大幅な前年割れが続いている。
日本では、アメリカで広がる黒人男性の死への抗議運動「Black Lives Matter」に注目が集まっている一方で、近隣の香港の民主派デモを注視している人はどれほどいるだろうか。しかし、世界は敏感に反応している。中国が勢力を拡大し、世界情勢の中でも存在感を増す中、私たちは民主主義を守ろうとしている香港市民の叫びにも耳を傾けるべきかもしれない。