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朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)

Photo by Thomas Peter - Pool/Getty Images

4月上旬、日本外務省のアジア大洋州局はちょっとした懸案を抱えた。同省関係者は「米国から強い圧力がかかった案件だったため、担当者たちはどうしたものかと考え込んでいた」と語る。

ことの起こりは、南シナ海で今月、中国海警局所属の公船とベトナム漁船による衝突事故だった。ベトナム外務省は3日、南シナ海の西沙(パラセル)諸島付近で、中国海警局公船が操業中だった8人乗りのベトナム漁船に突っ込んだうえに、沈没させたと発表した。ベトナム側は3日、ハノイの中国大使館に対して事件の調査や再発防止などを求める抗議書簡を手渡したという。米国務省も6日、「事件は、海上での不法な航行と主張で、東南アジア諸国に不利益を与える中国の最も新しい行動だ」などとするオルタガス報道官の声明を発表し、中国を批判した。

日本政府関係者によれば、米国は「自由で開かれたアジア太平洋(FOIP)」構想をともに主導する日本が、なぜ早く同じ趣旨の声明を発表しないのかと強く迫っているという。外務省関係者は「いくら習近平国家主席の訪日問題を抱えているとはいえ、声明を出さないということではない」と語る一方、米国の強い姿勢に目を白黒させていた。

米国の中国に対する姿勢はどんどん先鋭化している。ポンペオ米国務長官は新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」と呼ぶことにこだわり続けている。ホワイトハウスは10日、身内とも言うべき、米政府系放送局「Voice of America(VOA)」について中国・武漢の封鎖を成功モデルと呼んだとして、「ジャーナリストは事実を報告すべきだが、VOAは北京のプロパガンダを宣伝している」と批判した。

3月上旬には、太平洋に展開中だった原子力空母セオドア・ルーズベルトで新型コロナウイルスの集団感染が発生した。クロジャー艦長は米軍幹部らに対し、乗組員を早期に下船させて処置するよう求める文書を送った。モドリー米海軍長官代行は2日、文書を米軍上層部以外にも送ったとして、クロジャー氏の解任を発表。今度は米国世論が反発したため、モドリー氏は7日に辞意を表明した。

自衛隊関係者はモドリー氏がクロジャー艦長を解任した判断について「モドリー氏は拙速な決断を下すのではなく、軍法会議の下での詳細な調査をまず指示すべきだった」と語る一方で、「米空母は1隻でも軍事戦略に大きな影響を与える。速やかに混乱を回避しないと潜在的な敵国の中国につけ込まれると焦ったのだろう」とみる。

実際、エスパー米国防長官は3月31日、CBSニュースのインタビューで空母セオドア・ルーズベルトでの新型コロナ集団感染が、米軍の即応態勢に与える影響を否定した。ミリー米統合参謀本部議長も4月9日、国防総省での記者会見で「米国の敵たちが、米国がコロナで危機に瀕しているとして、これを利用しようと考えるのならば、それは非常にひどい間違いになる」と念を押した。

トランプ米政権は2017年12月に発表した国家安全保障戦略で、中国について、ロシアと並んで米国の権力、影響力、利権に挑戦しようとしていると位置づけた。貿易摩擦が激化し、両国関係は悪化の一途をたどっている。そして、ロイター通信によれば、新型コロナウイルス感染症による米国内の死者は11日、2万人を突破し、イタリアを上回って世界最多となった。自衛隊元幹部は「米国の対中世論が悪化したことも、トランプ政権の中国に対するより厳しい態度につながっている」と語る。

文=牧野愛博

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