翌日、縄文杉へのトレッキングに出かけたが、その間にも身体がほぐれたスパの効果は実感できる。ガイドもしていただいた大木さんは信州大学山岳会出身で、山岳写真の大家、故白籏史朗氏のもとで10年間働いた山のプロ。屋久島の自然に関しての知識が豊富なだけでなく、スパからの情報をもとに、ペース配分や、体の弱い部分を痛めないためのストレッチなどもアドバイスされ、体への負担を最小限に留めることができた。
さらに、生物学、地質学などの知識を活かした説明が楽しく、想像以上に楽に縄文杉に到達することができ、翌日の筋肉痛もほとんどなかった。とはいえ、細く険しい山道のそこここに残る、ひと抱え以上もある巨大な杉の切り株を見ると、人々が日常的に行なってきた労働に驚嘆するばかりだった。
大木信介さんが撮影した夏の縄文杉
トレッキング中、大木さんが光の具合なども配慮して写真のベストスポットを教えてくれたり、スナップ写真をお願いしても、センス良く撮影してくれるのが嬉しい。
サンカラホテルがこのアクティビティマネージャーという制度を取り入れたのは1年半前だが、実は、ガイド以外にも大切な役割がある。「お客様といる時間が長いぶん、何気ない会話を通してうかがったことから、サプライズの演出など、より良いおもてなしができないかを常に考えています」と大木さんは言う。
それらの情報は、ホテルの他部署にも共有され、次回の宿泊の際にも引き継がれる。こちらから説明をせずとも、リゾートが理解してくれていて、ありのままの自分でいられる。3割がリピーターという理由は、そんな卓越した心地よさにもあるのかもしれない。
味噌も手づくりする地産地消の料理
トレッキングから戻り、ホテルでひと休みすると、夕食の時間だ。館内にはプリフィクスメニューを提供するayana、約10皿のお任せのコースのみを提供するokasと2つのレストランがあり、いずれも屋久島の食材を活かしたフレンチがベースとなっている。
屋久島特産の水イカ(アオリイカ)は、サヤエンドウの実と屋久島産の無農薬レモンの皮、そして敷地内で収穫される山椒の一種で、クチナシの花のような香りがある犬山椒の葉のオイルが添えられている
ニューヨークやハワイ、神戸の飲食店やホテルなど、系列グループ全体の食を統括する武井智春エグゼクティブシェフが、ここでも2つのレストランを「地産地消」というコンセプトのもとでオペレーションしている。
例えば、屋久島での食材を探している最中に出会った、味噌のつくり手である濱崎さんにお願いして、毎年一緒に味噌をつくり、レストランでの料理にも使うなど、一から手づくりするスタイルにこだわっている。
「島では、味噌には神様がいると言われ、神聖なものとなっています。味噌づくりをする人は少なくなったが、伝統をこうして受け継いでもらえるのが嬉しい」と濱崎さんはいう。
味噌づくりの発酵も、自然の力だ。島の人たちは、こうして自分たちの力では変えることのできない自然に、神が宿ると考えてきたのだろう。日本古来の信仰でもある、八百万の神という考えも、この島にいるとすっと腑に落ちる。