自分を受け入れることを教えてくれた『異才発掘プロジェクト』
夢中で映像制作を続ける息子の姿に感化されたのか、あるプロジェクトの募集が母親の目に止まった。志のある特異な才能を有する子どもたちが集まり、学びの多様性を実践する『異才発掘プロジェクト』だ。ナガフジさんは中学3年生の時にその一期生として参加することになった。
(c) 異才発掘プロジェクト(志のある特異な才能を有する子どもたちが集まり、学びの多様性を実践する、日本財団と東京大学先端科学技術研究センターが共同で運営するユニークなプロジェクト)
「僕みたいに話すのが苦手だったり、空気が読めなかったり、発達障害だったり、文字を書くのが苦手だったり、それでいて変わったことをやっている子たちが集まっていました。すごく価値観が広がりましたね。そこで出会った中邑賢龍先生がまた変な人で、『学校に行かなくてもいいよ』って言うんです。彼の存在は僕の中でものすごく大きかったですね。実際に高校にも入学はしたんですけど、1週間くらいしか通いませんでした」
ナガフジさんの家は北海道の虻田郡、高校まで電車で片道1時間半という長い道のりだった。往復3時間かけて行った先で、映像制作以上に興味が持てるものも見つけられず、学校にもあまり馴染めなかった。『異才発掘プロジェクト』でたくさんの人から影響を受け、背中を押された彼は、ますます自分の好きなことにのめり込んでいった。
「できないことがあるままでも、自分の好きなことができている。自分の劣っている部分を受け入れられるようになりました。学校に行ってなかったので、人よりも時間があった。部屋に籠ってリサーチして、チュートリアル動画を見て、ひたすら映像を作って、を繰り返す。できないもどかしさや不安もありましたが、今はポジティブに受け止めています」
映像クリエイターとして希望が見え始めた2019年
北海道で一人黙々と映像を作り続ける日々。多くの映像クリエイターや映像制作の仕事が集まる東京に移住するという選択肢も頭をよぎったが、生活コストと天秤にかけて、彼は北海道で暮らし続けることを選んだ。
(c) nagafujiriku
宇宙空間やファンタジー、現実では映すことができない映像をいかにリアルに見せられるかを追求するVFXの世界。そこでは、物や景色にどのように光が当たり、影が落ち、色合いが変化するかを表現するための観察力が求められる。
日常生活の中でも常に光を意識しているという彼にとっては、北海道という壮大な自然や景観が見せてくれるイメージもまた、想像力の源になっているのかもしれない。そんな彼が紡ぎ出す繊細な表現と独特の世界観に引き寄せられて、少しずつ制作依頼の声がかかるようになった。