テクノロジー

2020.04.13 10:00

それは科学とアートの入り口。微小重力がもたらす新しい景色

左:JAXA きぼう利用センター長の小川志保/右:アーティスト・研究者の福原志保

左:JAXA きぼう利用センター長の小川志保/右:アーティスト・研究者の福原志保

バイオテクノロジーの研究を続けながら、生命に対する常識や倫理観を揺さぶる作品を私たちに提示してきた、アーティストで研究者の福原志保さん。地上約400kmの宇宙空間にある「きぼう」日本実験棟の利用を企画立案、推進してきた小川志保。
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「きぼう」は、地上の100万分の1の重力の世界。科学とアートが交差する場所を探りながら、互いが見つめる宇宙、そして地球に産まれ落ちた生命の可能性を語る。

人類は宇宙で暮らすことができるのか?


福原志保(以下福原):以前、とあるインタビューで「もしもお金と時間がいくらでもあるとしたら、なにをしたいですか?」と聞かれたことがあるんですが、そのとき私は「宇宙で妊娠、出産を経験したい」と答えたんです。当時、私自身が出産直後だったんですが、出生時の赤ちゃんの体重が4000g超えで。もう妊娠中は自分のお腹が重くて重くて……、歩くたびに重力を感じ続けていたんです(笑)。それに赤ちゃんはお腹の羊水の中でくるくる回転しながら成長する時期がありますが、上下左右の感覚がなくなるのは宇宙のようなもの? だとするなら、宇宙で妊娠、出産となるとどうなるのか知りたくなったんです。

小川志保(以下小川):面白い視点ですね。
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福原:こういうことを考えるようになったきっかけは、父親の影響があると思います。父は解剖学と歯科矯正学の研究をしていたんですが、あれは確か私が10代の頃、当時日本とアメリカがスペースシャトル「エンデバー号」を利用して行なった共同実験があって、父が働いていた昭和大学歯学部の同僚の教授が、そのひとつの実験に携わり、父も少し関わったようなのです。それは宇宙環境でニワトリの卵が正常な発生を行えるのか孵化実験を行うというもので、ニワトリを将来、宇宙で育てる可能性を探る実験だったようです。その話を聞いていたことも、宇宙への好奇心につながったところがあります。


福原志保 FUKUHARA Shiho
2001年ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ卒業、 2003年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了。2004年ゲオアグ・ トレメルとアーティスティック・リサーチ・フレームワーク「bcl」 を結成。近年の活動としては、日常服に知能を与えるため の新技術とプラットフォームの開発に従事。並行して早稲田大学理工学術院電気・情報生命工学科でバイオの研究と制作を行っている。最近の関心事は、大量生産品のカスタマイズや工芸の愛好者の感情を見つめること。

小川志保 OGAWA Shiho
神奈川県出身。1995年から「きぼう」の利用企画・推進業務に係る。「きぼう」利用の多様性や使いやすさを考え、地球低軌道における宇宙環境利用の発展に取り組んでいる。最近の関心事は、継代や発生と微小重力の関連性。微小重力から月や火星と活動が拡がる世界で生物がどの程の世代継代で影響が出てくるのかを知りたい。


小川:それは1992年、日本で初めてスペースシャトルに乗り込んだ毛利衛宇宙飛行士が行った、「ふわっと’92」という実験ですね。まだ国際宇宙ステーション(ISS)と「きぼう」日本実験棟もない時代に、日本が初めて本格的に行った宇宙実験です。8日間にわたって行われたその実験のなかには、生命科学の分野の実験もあって、微生物、動物培養細胞、植物、そして人間を含む動物などを対象に、重力や宇宙放射線の影響を調べたんです。孵化実験はそのひとつですね。地上で産んでから0日、7日、10日のニワトリの卵を微小重力下で孵卵し、変化を調べたところ、0日齢の卵だけが10卵中、1卵しか孵化しなかったんです。
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取材・文=水島七恵 写真=森本菜穂子

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