欧州連合(EU)加盟国のほとんどが都市封鎖に踏み切っており、例外はスウェーデン、ハンガリー、オランダのみだ。そんななか、欧州宇宙機関(ESA)が2020年3月27日、衛星画像を公開した。2019年3月と2020年3月に撮影された画像を並べたもので、都市封鎖によってパリやマドリッド、ローマなどの都市上空で二酸化窒素(NO2)の濃度がどう変化したかが見て取れる。
工場が閉鎖され、人々が在宅勤務をするようになったため、通常なら重工業や自動車が原因となって発生する大気汚染が、目に見えて減少しているのだ。
EU地球観測ミッション「コペルニクス計画」の一環で打ち上げられた地球観測衛星「Sentinel-5P」が、ヨーロッパと中国全域の大気汚染を調査。その結果、大気中に含まれる二酸化窒素の濃度が、厳しい都市封鎖措置の実施と時を同じくして大幅に低下したことが明らかになった。
オランダ王立気象研究所の科学者は、同衛星から送られてきた画像を使って、ヨーロッパ上空の天候と汚染状況を観測している。そして、複数日にまたがるデータをもとに、二酸化窒素の濃度低下が単に1日だけ偶然に見られた現象ではないことを確認した。
「二酸化窒素の濃度は、天候の変化によって日々変わる」。同研究所のヘンク・エスクス(Henk Eskes)はそう話す。「たった1日分のデータから結果を導き出すことはできない」
「大気中の化学的現象は、直線的には起きない。従って、濃度の低下は、炭素排出量の減少とはやや異なるかもしれない。人工衛星による観測をベースにして排出量を定量化するには、日々の天候の変化を追跡する大気化学モデリングを、逆モデリング手法と併用する必要がある」
フランスとヨーロッパ南部上空における二酸化窒素濃度の変化がもっとも顕著なのは、それらの国々での都市封鎖がきわめて厳しいうえに、一番早く実施されたからだ。3月23日(現地時間)にロックダウンが開始されたばかりのイギリスと、封鎖はされていないものの不要不急のビジネスは自粛するよう推奨されているオランダについては、まだはっきりとした違いが認められていない。
EU各国の指導者たちは2020年3月26日にテレビ首脳会議を開き、ロックダウンからの出口戦略を合同で策定し、翌週の欧州委員会で提案することで合意した。欧州委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエンは会談後、「日一日と経済力が大きく失われている」と語ったうえで、都市封鎖の解除が早すぎれば健康が脅かされる一方で、解除が遅すぎれば経済が脅かされると述べた。
経済活動を縮小した結果として炭素排出量が減っているのなら、2050年までにEU域内の温室効果ガス排出をゼロにして完全な脱炭素化を目指すグリーンディールは撤回すべきではないかという声も上がっている。排出量が自然と減っているためだ。しかし、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、EUの経済回復策にとっては、炭素削減を中核に据えることがきわめて重要だと述べている。
今回の調査結果に関する文言は、3月26日に開催されたEU首脳会議の共同声明に追加された。