過去最大の規模で実施した第3回目となる今年は、グランプリを含めて19社が受賞企業となった。そのうちの1社が、関西大会でグランプリを受賞したハート・オーガナイゼーション(大阪市淀川区)だ。
同社が手がける「e-casebook」は、医師同士の症例相談プラットフォーム。現在、122カ国で1万1,000人を超える医師が登録している。このサービスが作られたきっかけは、東日本大震災の影響で売り上げが半減したことにあった。つらい時期をどう乗り切ったか、同社の成功は逆境に直面するすべての企業にとってビジネスのヒントとなるはずだ。
「薬ではなく医療技術を広めるのを手伝って」
世界中の医師が、時間や距離の制約を超えて一体感を醸し出していた。
2019年末、末梢血管治療の研究会がインターネット上で開かれ、首都圏の病院での実技がライブ配信された。コメンテーターはベルギーや香港、台湾といった居住地にいながらネット経由で“登壇”。世界中で視聴していた参加者からも活発な発信が続き、最終的にコメントは500件ほどに。壇上での議論に終始しがちなこれまでの会場参加型研究会にはなかった、双方向の盛り上がりを見せたのだ。
グローバルな「学びの場」をローコストで実現したのが、医師向け症例検討プラットフォーム「e-casebook LIVE」だ。このサービスを19年春に開始したハート・オーガナイゼーション代表取締役の菅原俊子は、柔らかな話しぶりで「地方も都会も、先進国も発展途上国も、医療格差のない世界を目指しています」とさらりと言う。
菅原が同社を立ち上げたのは00年。外資系製薬企業で医薬品のプロモーションを担っていたが、知り合った医師から「薬ではなく医療技術を広めるのを手伝って」と請われたことがきっかけだ。
当時の医師にとって医療技術は、院内で上司らに教わるか、他の病院に依頼して手術室を見学させてもらうかのクローズドな実地学習が主流だった。それをもっとオープンにしたいという医師の志に打たれた菅原は、退職し、個人事業で学会や研究会の受託を始めた。
4年後に法人化するころ、知人が原因不明の体調不良を起こし、多くの医師に診てもらった末に「脳脊髄液減少症」と判明した。その経験も今につながっていると菅原は語る。
「高額な医薬品や医療機器なら企業がプロモーションをしますが、この病気の治療には特別な薬も機器も使わないため、かえって治療方法が広まらず、限られた医師の元に患者が殺到している状況でした。病院や国境を超えた医師同士のネットワークができれば、こうした問題も解決できるんじゃないか、と考えるようになりました」