東日本大震災で見つけた活路は「IT化」
経営は安定していたが、仕事量に比例して社員を増やさねばならないビジネスモデルに菅原は限界を感じ始める。09年、経営戦略を学ぼうと大学院へ進学。必修だった情報システムの授業で、関心のなかった分野に心揺さぶられたという。
「データマイニングなど時代がウェブ化に進んでいると痛感したんです。これはすごい、インターネットを活用して、もっと効率よく医師の技術や臨床上の経験を共有できるはず、と」
東日本大震災が発生した11年、学会や研究会は中止や延期となり、売り上げが半減。だがこの逆境こそ、菅原が「今のままではだめだ」とIT分野へとかじを切る原動力になった。
菅原にはかねて気になることがあった。病院での医師との打ち合わせの際、CD-ROMが配送されてくることがあったのだ。聞けば、別の病院の医師がCTやMRIなどで撮影した画像をCD-ROMに焼いて送ってきて、後日電話してくるのだという。
モニターを確認する医師と菅原俊子代表取締役
「要は、どう手術したらいいかという相談を外部の先生にしていたのです。ある調査では、9割以上の医師が自分の行う治療に不安を感じているといいます。医療は日々進化していて、毎年のように新しい術式やテクノロジーが生まれるので、医師は忙しいなかでも学び続けなければ対応できなくなる状況にあるのです」
そこで菅原は、医用画像をネット上で共有して話し合えるサービス「e-casebook」を14年にリリース。当初こそ「患者のデータをネット上にアップして問題ないのか」と二の足を踏む医師も少なくなかったが、2年後、日本心血管インターベンション治療学会が専門医を認定するための技能評価や遠隔研修に採用したことで一気に広まった。