ビジネス

2020.03.29 12:30

24時間世界中の医師と繋がれる。医療格差問題に取り組む女性起業家


1万1000人を超える会員の46%が海外の医師


一方で菅原は、リアルな場での学会や研究会の仕事も請け続けてはいたが、研究会での実技の様子をe-casebook登録者にライブ配信してみたところ、意外な展開があった。

ひとつは海外の登録 者が増えたこと。もうひとつは、地方の若手医師た ちから感謝の声が寄せられたことだ。現場で多くの 患者を受け持つ若手こそ学ぶ必要があるはずだが、 遠方で研究会や学会があっても上司に留守番を命 じられて参加できていなかったのだ。そんなギャッ プを知り、菅原は心を決めた。

「e-casebook上で研究会を開催できるようにして、 ウェブサービスだけの会社にしよう」。こうして事業 を特化した19年に生まれたのが、冒頭で紹介した 「e-casebook LIVE」だ。

現在、会員の医師は1万1,000人を超える。う ち46%が海外で122カ国・地域に及ぶ。菅原は「ま だ投資期間で収益が上がるまでには時間がかかる」 と控えめだが、「特にアジア、中東では私たちのサ ービス上にいる日本人医師の医療技術にリスペクト を感じる」と早期の需要拡大を見込む。

他方、国内の会員は首都圏以外が74%を占める。 医師不足や高齢化による需要爆発に、地方ほど危 機感を抱いている。現時点でも、例えば、急性心 筋梗塞での致死率には顕著な地域差がある。カテ ーテル治療ができる医師が若手2人だけという地方 の病院で、24時間体制で対応しようとすれば、都 市部の専門医などとの情報共有は不可欠だ。

だからこそ、と菅原は言う。 「それを実現するのが、e-casebookです」


菅原俊子◎大阪府出身。関西 学院大学総合政策学部卒業。 関西学院大学専門職大学院経 営管理修士修了。外資系製薬 会社でマーケティング本部での 経験を経て、2000年にハート・ オーガナイゼーションを創業。


e-casebookの新たな展開とは──。そのほか、グランプリを受賞したフィルム型ソーラーの川口スチール工業(佐賀県鳥栖市)や「COEDO(コエド)ビール」の協同商事(埼玉県川越市)など、危機をバネに進化を遂げたスモール・ジャイアンツたちの逆転のストーリーを一挙公開。

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文=秋山千佳 写真=佐々木康 撮影協力=あいちハートクリニック

この記事は 「Forbes JAPAN 5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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