経済・社会

2020.03.11 06:00

福島第一原発の現在地。震災から9年、まだ4万人が家に帰れない

福島第一原発事故から9年。廃炉作業は続く (GettyImages)


たまる「汚染水」主体性なき東電


プールからの核燃料搬出は、3、4号機で実績があり、ある程度は先を見通せる。しかし、デブリ取り出しとなると話は別だ。
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まず、原子炉内の調査が東電の思うようには進んでいない。ここでも高線量がハードルだ。格納容器底部のカメラ撮影に成功した2号機では、21年中に取り出しが始まる予定。当初1グラム程度ずつ小石状のものを取り出し、1日当たり数キロにまで段階的に増やしていくことが見込まれている。

数年間搬出を続けることになるが、237トンと推定されるデブリを全て取り出せるのか、どこでどう保管するのかさえ見通せない。1、3号機は具体的な計画もなく、最難関の作業は準備と後始末の道筋が描けないでいる。

核燃料リスクのほかに、懸案となっているのは、構内に約1000基あるタンクにたまる水だ。主に原子炉建屋内で発生する高濃度の放射性物質を含む汚染水を、多核種除去設備(ALPS)という設備で浄化した後の水が、約110万トン保管されている。
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政府と東電は、22年夏にもタンクの保管容量が限界を迎えるとして、どうにか処分しようと模索している。政府関係者への取材では、政府と東電は20年夏の東京五輪以降に、水を海に放出処分する方針を決める公算が大きい。

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構内にタンク約1000基が立ち並ぶ福島第一原発

この水には、浄化処理しても取り除けないトリチウム(*注)を主に含む。東電は「処理水」と呼ぶが、タンクにたまる水の7割にトリチウム以外の放射性物質も法令基準を超えて含まれているため、「汚染水」ともいえる。

政府は有識者会議の議論を受け、水で薄めて放射性物質の濃度を法令の基準以下にし、海に流す「海洋放出」を軸にすえる。

地元の漁業関係者は、風評被害で魚介類が売れなくなることを懸念し、強く反対。市民団体などは、敷地内での長期保管を訴えてもいる。東電はタンクの限界が近いといいながら、政府の方針決定を待つだけ。電力関係者からは「原発の周囲にある中間貯蔵施設をタンクの敷地としてあてにしているのでは」という声さえ漏れる。

(*注)トリチウムは放射能を帯びた水素で、酸素と結合してトリチウム水になる。普通の水と分離するのは難しく、汚染水を浄化している多核種除去設備でも取り除けない。放射線(ベータ線)は比較的弱く、人体に入っても大部分は排出される。放射能は12.3年で半減する。
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文、写真=小川慎一

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