デビッド・ボウイが「ベルリンの壁」で起こした奇跡
赤川:新しい技術・テクノロジーは、軍事かエロ、あるいはエンターテインメントを通じて発展するのが常だと思っていますが、僕が好きだったロックというエンタメフォーマットも、世の中に確実に変革を起こしましたよね。
デビッド・ボウイがベルリンの壁崩壊の2年前に、西側の壁のギリギリの所で、スピーカーの半分を西ベルリンに、半分を東ベルリンに向けたコンサートをした(注1)。そして、ボウイの死後、ドイツの外務省が、「ボウイ、壁を壊してくれてありがとう」とツイートした。この話が教えてくれるのも、同じものを好きな人が集まると、本当に世の中は変わる、奇跡は起きるということではないかと思います。
僕は、人のクリエーションとそこから生まれるつながりが、世界をポジティブに変えるエネルギーになることを盲目的に信じています。産業革命の後、餓死も死亡率も減ったのに、自殺、孤独死は増えた。あるいはいまだに戦争をしている。原因は人と人とのわかりあいの欠如ではないかという思いがあるんです。ミラティブのミッションは「わかりあう願いをつなごう」というものです。人がつくるものには何かしら「願い」がこもっている、そしてその願いが届くと、本当に世界が変わることがある。エモ苦しい話ですが(笑)。「Mirrativ」でも、不登校の中学生の子が、ゲームが上手くてひたすら配信していると「神」と称賛されて救済されていく、というような現実もある。
上田:僕も小説を書いていて、読者に言われて一番うれしい言葉は、「この作品を読んで死ななくてすんだ」なんです。
「グローバルスタートアップ」という新たなプレーヤー
上田:ミラティブのID数は実に1000万、海外からも普通に使われているんですよね。最近、上場前から海外で展開してる会社は増えてきていますが、なぜだと思いますか。
赤川:競争環境的に、グローバルでやらないとどうしようもない領域が増えてきているのは確かです。ゲーム実況の領域でも、去年と一昨年で中国に、評価額5000億円規模の上場企業が2社できた。とりわけ「toC」(個人客向け)のサービスは、資本のレバレッジ(利益率が高まる倍率)がかかりやすくなっています。たとえば「TikTok」。同じような日本のサービスが、3桁違う規模の投資で叩き潰された。
そして、とくに僕のやっているゲーム実況の領域は、次のエンターテイメントプラットフォームとして、GAFAもBATHもすべて張っている、みたいな現実はあります。日本市場だけがんばって制覇ではなく、大きな野心で突き抜けないとサバイブできませんね。
注1:ボウイはこの時、ベルリンの壁で落ち合う恋人同士を見て書かれた名曲『ヒーローズ』の演奏前に、ドイツ語で「壁の向こう側にいる友人たちに私たちの願いを送ります」と叫んだ。このコンサートから1週間後、レーガン米大統領が旧ソ連ゴルバチョフ書記長に壁の取り壊しを申し入れたという。