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2020.03.18 10:00

1000万IDスタートアップが二極統合時代に「突き抜ける」方法|トップリーダーX芥川賞作家対談 第3回

石井節子

プログラミングは今の時代のバンドだ


上田:このあいだイーサリアム関連の開発者の落合渉悟さんと話した時、作品で影響を与えたい人はどういう人かという話になったんですよね。それでその時にふとスタートアップの立ち上げメンバーとかをプログラマーに採用できれば面白いなと思っていることに気づきました。なぜなら彼らは、日々仮説を立て、実行しているじゃないですか? 彼らが面白がることで、もしかしたら世界が変わるんじゃないかと。

赤川:1960年代は何も持っていない若者が世界を変えようと思うと、一番手っ取り早い手段がギターを持って歌って、ラジオを通じて世界に音楽を伝えることだった。ビートルズがまさにそれですよね。それが、ギターがラップトップPCに代わって、いまは若者が一番世界を変えられる手段がプログラミングであり、スタートアップになった。つまり、プログラミングが今の時代のバンドだと思います。

上田:ですよね。例えばザッカーバーグの意思決定は、彼の人生のフェイズによって変わってきたりする。それによって、彼が繰り出す技術に紐づいているわれわれの生活の細々したものが変わってくる。つまり、彼らの機嫌というか判断で世界は動いていることになる。

これってすごく神話的で、面白い。そういう暮らしに直接的に影響を与えるアイディアや技術を世界に実装する機能を生み出しているのが、プログラマーとかスタートアップ創業者だと思う。

インターネット業界と「世界最終戦争」


上田:僕の小説『キュー』、お読みいただいていかがでした?

赤川:「人類がある思想とそのカウンターを繰り返しながら、行きつ戻りつ、どこに向かうのか」といったことは、僕にとってそもそもの大きな興味領域なので、とくに『キュー』(注2)の世界観にはとても共感しましたね。自分でも小説を書きたくなるほどの運命的な刺激を受けました。

それに、僕は広島生まれで、地元では5歳か6歳の頃から毎年8月6日は当然黙祷して、平和公園に行って、相生橋を通ってと、原爆のことが日常だったんですね。

さらに、大学時代にゼミに所属していた福田和也先生が、石原莞爾の本(『石原莞爾と昭和の夢:地ひらく』)を書いておられるので、『キュー』の主要人物に石原莞爾が出てきてはっとしましたね(注3)。

僕はDeNAにいた時に、インターネット業界の未来について周りに言っていた自論があって、それは「これから世界最終戦争的な時代になる」というものです。彼の思想で二大国にすべてが統合されていくように、グーグルとテンセントの二極に集約されていくのではないか、と。基本的に新しいものを生み出すスタートアップか、それを吸い込むグーグル、テンセントしか価値がない、中途半端が一番意味のない時代になると思っていました。それで、僕ら(当時のDeNA)、突き抜けないと存在意義がないよねみたいな話をしていたんです。

注2:『キュー』は芥川賞受賞後、第1作目の上田の作品で、「広島の原爆で焼け死んだ」記憶を持つ少女に「僕」が心惹かれる現在と、石原莞爾が未来を予言する戦中戦後期、そして「等国」と「錐国」が世界戦争を繰り広げる28世紀の3時間軸で語られ、時空を超えた世界が交差する「超越系」文学。

注3:石原莞爾は日本の陸軍軍人で、関東軍作戦参謀として、柳条湖事件に端を発する満州事変に関わった。「世界最終戦論」などを著した軍事思想家。東条英機と対立、太平洋戦争開戦時は「予備役」に追いやられた)
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文・構成=石井節子 写真=曽川拓哉 サムネイルデザイン=高田尚弥

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