辺境でやるべきことを、あえて中央でやる
上田:それにしても新卒でDeNA、最年少の執行役員、それなのにスタートアップ創業と、赤川さんみたいなキャリアを積んでいる人って日本では少数派だと思います。
赤川:DeNAのキャリアはともかく、僕はずっとただの「サブカルクソ野郎」だという自覚があります(笑)。いまだに、事業家や資本家で大金持ちになっている人たちよりも、ザ・ブルーハーツ(1980年代〜1990年代に活動した日本のロックバンド)の方が偉大だと思っています。そんな僕がスタートアップをやっている。
上田:ロックンローラー・スタートアップですね(笑)。20年前はそもそもスタートアップという言葉が一般的ではない時代でした。お金の価値がすごく高くて、金持ちが超偉いみたいな状況だった。それが今すごく変わってきていて、価値観の多様化が見える化してきている。金はあくまでも、ほかにフォーカスを当てるための手段であるという見方もあって。ただ、自由にはなったんだけど、では何を目指せばいいのか茫漠としている感じもしますね。
赤川:僕は、若気の至りで、いわゆる大企業に就職、みたいなのはダサいと思ってたんです。学生の頃からもう「盛者必衰」的な人生観があったのかもしれない。でも、結局バンドをやりきる勇気があるわけでもなかった。
今はスタートアップ的なものが大きなトレンドの真ん中にいるから、人も集まってきてダイナミズムもあると思いますが、もしかしたら今度は「まだスタートアップとか言ってるのか?」みたいな時代が来るかもしれない。
トレンドも変わるし、「辺境」のあり方や定義も変わる。ただ、「新しいものはカウンターから生まれる」とか、「辺境から生まれる」というのは変わらないと信じています。
上田:文学でもそうです。芥川賞をはじめ、文学の表彰システムも本来「カウンター」だったはずなんですが、歴史とともに「権威」になっていく。それはもちろん「よいこと」ではあります。注目を集めるシステムとしての機能は絶対あるべきです。けれども同時にその権威によって、否応なく傷つくものは必ずあるはずで、そのことに目を向け続けなければならない。
実際に僕自身、デビューするまでのどこかの段階で理解されること、評価されることを諦めていた瞬間がありました。けれどまあ、誰からも相手にされなくても、80歳くらいまで書き続けて、ネットにでも発表して死ねばいいやって割り切って、今もその感覚がどっか残っています。
赤川:僕は、本当に不自由な環境を経験していないことにコンプレックスがある現代っ子だし、誰からも共感を得られない真の辺境に行くのは苦手なタイプなんだと思っています。本当にカウンターをやっているわけではない。だから、芥川賞というか、「権威」ってだせえよなと言いつつ、その権威に入りこんで内部から破壊に行くみたいな感じは、わかります。
今は人それぞれがいろんな価値観の中で、それぞれがいいと思うことをやるという時代になってきていると思う。
上田:「みんな違ってみんないい」みたいになってきているから、「食えないかもしれないけどかっこいい」とイイネ!を押されて処理されるのも味気ないと思うんですよね。「辺境でやるべきことを中央でやる」というか、「制度化された辺境」のさらにその辺境がいつの間にか中央になる、みたいな展開があり得るだろうなと思っています。
対談後記・上田岳弘
今回ご登場いただいたのはミラティブのCEO、赤川隼一さんです。もともとバンドを組んで、プロのミュージシャンを目指しておられただけあって、興味範囲が広く、小説『キュー』 の中にまで踏み込んだ多角的な対談になりました。理念の前にある人間としての熱さと、分析的な視点とが相まって話題が尽きることがありませんでした。DeNAの元最年少執行役員でもあった彼の経験談は、2000年代のベンチャービジネスの雰囲気もうかがえる貴重なものでもあるなと感じました。
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