山本は、チームづくりに奮闘した。同僚の坂本教晃とともに「ドローンで世界に誇れる新しい産業をつくる」という思いを熱弁し、元物理学者でマッキンゼー・アンド・カンパニーの太田裕朗(現・社長)を口説き落とすと、彼の仲間だった鷲谷聡之(現・COO)、早川研介(現・CFO)もこの使命感に共鳴。東京大学助教で、米ボーイングでの勤務経験をもつクリス・ラービもCTOとして参画した。
このチームは強力だった。商品開発や販売戦略のスピーディな試行錯誤を重ねて、事業化に成功。投資からわずか2年後の18年12月、ACSLは東証マザーズに上場した。「いいチームを構築して、それをうまく機能させることで、自律的に経営して成長する体制をつくれた」と山本は胸を張る。
ディープテック領域からの新産業創出に注力する山本だが、こだわるのには理由がある。ドイツの物理学者、ヴェルナー・ハイゼンベルグに憧れて、大学では物理学を専攻。学問の道には進まなかったが、真理を探究する研究者に対する尊敬の念は人一倍強い。VCの存在自体は、三井物産に入社した直後、友人からの話で初めて知った。「研究に深く携わりながら、会社のあらゆることに当事者として関われる、こんな面白いことはないと思いました」。
チャンスは偶然にも訪れた。1997年、三井物産がベンチャー・キャピタリスト要員を全社公募にかけたのだ。想いをぶちまけた山本は、見事選抜され、投資家としてのキャリアをスタート。米ニューヨークに駐在し、シリコンバレーのIT企業を中心に投資活動に従事した。そして2008年、ディープテックVCの草分け的存在であるUTECに転職。「日本の優れた研究成果をもとに、グローバルに活躍できるような会社をつくる投資をしたいと思っての決断でした」。
山本は現在、ロボットやIoT、AI、モビリティなどの領域に積極投資している。「軸は『優れた研究』。研究の世界には国境がなくて、私の抱えている投資先も半分くらいは海外の案件です」。
四半期に1度は米国とシンガポール、最近では英国やポーランドにも足を運ぶ。「米国の投資マーケットは、映画でいうハリウッドのようなもの。巨額な資金が必要で、大ヒットを狙うので、IT系であればSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)など、万人受けする方向にいきやすい。一方で、私たちがやっているロボットやドローンの領域は、シリコンバレーの企業たちが事業化しようとしても、必ずしもうまくいかなかった経緯がある。ディープテックインベスターとして、やりがいを感じますね」
ACSLへの投資体験を、映画に例えると?と質問すると、山本は『2001年宇宙の旅』と答えた。「科学に基づいて予見した未来に、現実が追いつくイメージでしょうか」。同作品を生んだ巨匠・スタンリー・キューブリックのように、山本が次にどんな投資劇を見せてくれるのか楽しみだ。