ビジネス

2020.02.29

日本初の新たな産業を創出したい 投資が育む新たな産業とは

UTEC取締役パートナーの山本哲也

「Forbes JAPAN」が日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の協力のもと、毎年行なっている「日本版MIDAS LIST」。2019年版は、18年11月から19年10月までの1年間におけるIPO(新規株式公開)、M&A(合併・買収)によって得たキャピタルゲインが対象となる。今回1位に輝いたのは、優れた技術を持つディープテック企業に投資をする山本哲也。「優れた研究」への彼の投資が新たな産業創出の芽を育んでいる。


2019年10月25日、米国を代表するベンチャー・キャピタリストがこの世を去った。セコイア・キャピタルの創業者、ドン・バレンタイン。享年86歳。

「VC業界にとって大きな損失でした。彼の残した言葉は、僕の中で一つの大きな軸になっています。それは、『VCとは、事業を創出する事業で金融取引ではない。会社をつくりあげ、時として新しい産業自体を創出することが我々の仕事なのだ』というものです」

そう語るのは、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)取締役パートナーの山本哲也。山本にとって、自律制御システム研究所(ACSL)への投資案件は、まさにこの哲学を体現したものだった。

ACSLは、ドローン研究で世界を20年以上リードしてきた千葉大学・野波健蔵教授が13年に創業した大学発ベンチャー。コントローラーなどで操作することなく、自律型で動く産業用ドローンを開発している。山本が同社に投資した16年当時、ドローン市場は中国DJIや仏Parrotなど、一部企業がホビー用途で先行していたが、産業用途ではまだ黎明期だった。

「『空の産業革命』ともいわれますが、日本の先端的な研究と優れた部品を組み合わせて、日本発の新たな産業を創出したいという使命感に駆られました。世界的にも商用分野では米国が大きく突出していない領域で、日本として攻め入る余地があると思ったのです」

ただ、難しい投資になることはわかっていた。大学発ベンチャーにはありがちだが、商品の開発時期や販売の計画が甘く、事業化のノウハウに乏しいという欠点がある。「投資時点の事業計画は9割以上の場合、想定通りにはいきません。今回もその通りでした」。

難局を乗り切るうえでのヒントは、山本が尊敬するもう一人の投資家、KPCBパートナーのジョン・ドーアの言葉に隠されていた。

「それは、『良いベンチャーキャピタリストとは、良いチームの構築と成長をサポートできる人である』こと。映画に例えるなら、起業家は脚本家で経営者は監督、チームのメンバーは俳優で、VCはプロデューサー。我々は、いいキャスティングをして環境をつくることが役割なんです」
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文=眞鍋武 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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