虐待・産後うつから母親を救う、英国発の子育て家庭訪問ボランティア

Photo by Ippei Naoi / Getty Images


無償ボランティアは成立するか


そして日本でも、児童福祉の専門家が、この活動を知り、子育て支援の関係者に声をかけて勉強会をするようになりました。「行政が設ける子育て広場には来られない母親もいて、どこにも気持ちを持っていけない」という支援者。「お母さんが大変そうでも、お迎えの立ち話では話しきれない」と感じる保育士。児童養護施設のスタッフは「虐待の恐れがあって親子が離ればなれになる前に、地域の中で応援できることがある」と感じていました。試しに2007~2008年の間、ホームスタート同様の活動をしてみました。

懸念されたのは、1. 無償ボランティアで成立するか、2. 家庭訪問が日本で受け入れられるか、ということでした。関東の都市部と、九州で試行し、利用者とボランティアの双方にインタビューしました。

ボランティアに聞くと、「お金をもらったら、変な感じ。お茶を飲んで話しただけで、特別なことは何もしていません」「会うたびに、お母さんの表情が柔らかくなって、子どもも慣れてくる。楽しい時間だった、ありがとうと言われて嬉しい」「無償は自然なことで、やりがいや楽しさが得られる」との話でした。

利用者には、「初めましての人が、自宅に来るのは緊張しないか」と聞くと、「合わない人だったらどうしようと思ったけれど、合わなければ言えるから安心」「受け止めてもらえて、話をすることで、もやもやがスッキリした」と好評でした。


ホームスタート活動のパンフレット なかのかおり撮影

傾聴と協働が目的


日本でも2009年に正式に始めました。子どもに関わる団体に呼びかけると、NPOや社会福祉法人など13団体から手が上がりました。仕組みはこうです。地域ごとに、子どもや福祉にかかわる人たちが「オーガナイザー」というリーダーになります。研修を受けた子育て経験者のボランティア「ホームビジター」が、乳幼児がいる家庭を訪問。話に耳を傾け、ちょっとした家事や洗濯たたみ、ご飯作り、通院や買い物、子どもの世話などを一緒にします。「傾聴」と「協働」が目的で、シッターや家事ヘルパーとは違います。

ホームビジターになるための研修は、地域で年に1度ほど開かれ、のべ8日間・37時間で参加費は無料。講師はオーガナイザーや地域の専門職で、子育て経験がある人は誰でも参加できます。活動の目的を理解し、自分の価値観を押し付けないように心がけてもらいます。それぞれの地域に「運営委員会」もあり、専門職が相談役のように助言します。
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文=なかのかおり

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