「一瞬で何もかも奪う」アフリカの大地を食い尽くす蝗害、バッタ博士が解説

(c)FAO/Sven Torfinn. 2020年1月、ケニア北東部を襲ったサバクトビバッタの大群。


しかし、人体への影響は無視できない。液状の殺虫剤をULV(ウルトラ・ロー・ボリューム)という方法で微粒子化し、少ない量で高い効果が得られるように工夫されているが、散布される前に人々を退去させなくてはならない。

「被害を食い止めるには、新たな群れができるまでに素早い対策をとることが重要です。パトロール隊を派遣してバッタの状況を常に把握し、移動能力が低い幼虫の群れを見つけ次第、地上から殺虫剤を散布する。状況は刻一刻と変化していて、FAOは7月までに必要な金額を7000万ドルから7600万ドルに引き上げましたが、28.4%しか集まっていません」

現在、援助を拠出したのはドイツ、スイス、アメリカ、ベルギー、デンマーク、サウジアラビアなど。日本は過去にもバッタ被害国に対して支援をしており、今回も資金援助が期待されている。

科学的技術でも貢献


日本は資金援助だけでなく「科学技術で貢献することもできるはず」と前野氏は話す。

歴史的にも大発生で大きな被害を与えてきたサバクトビバッタ。長年にわたって研究の対象となってきたが、意外にも野外での生態がよく分かっていないという。

サバクトビバッタについて調べると、さまざまな数字が出てくる。1日の飛翔距離についても100km以上という記述もあれば、150km以上とするものも。寿命は2カ月から3カ月が一般的とされるが、貧しい餌を与えると逆に長生きになるため、前野氏が育てた中では半年以上生きたものもあるという。

「野外での行動パターンがまだ把握されていないんです。環境によって大きく変わってしまう。サバクトビバッタが生息している半砂漠地帯は、1日の気温の変化が20度以上、砂丘があったり、風が強かったり、地面も昼間には60度以上になり、植生も独特。そういう実際の生息環境下で観察することで、初めて、バッタの生態学的な意味がわかるようになる。フィールドワークをして、彼らの特徴を理解するのが防除に貢献できる活動の一つだと思っています」

例えば、幼虫の群れは昼間、草を食べながら地面を歩いて移動するが、夕暮れ時になると、大きい植物に登ってその上で夜間を過ごす。夜は砂漠の動物達が活発になる時間だが、気温が下がるとバッタの動きは鈍くなる。暗くなる前に木に登るのは、夜行性の天敵から逃げるためだと考えられる。 
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文=成相通子

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