「一瞬で何もかも奪う」アフリカの大地を食い尽くす蝗害、バッタ博士が解説

(c)FAO/Sven Torfinn. 2020年1月、ケニア北東部を襲ったサバクトビバッタの大群。


「サバクトビバッタの群れはいまも増殖中で、侵入エリアを拡大しています。干ばつ、洪水によって被害を受けたエリアが続けざまにバッタの脅威にさらされ、1300万人が深刻な食糧不足に陥っています」

報道でよく取り上げられているのは、アフリカ大陸の東の端、ケニア、ソマリア、エチオピアの「アフリカの角」と呼ばれるエリア。下の地図を見ると、バッタに侵食されたエリアがエチオピアとソマリアからケニアに広がっているのがわかる。

両国の南に位置するケニアの北部と中央部をバッタの大群が通過中で、さらに西のウガンダや南スーダンにも到達している。


FAOが2020年2月17日に発表したケニアの被害状況の地図。

ケニアに到達したのは、1000億匹〜2000億匹とも言われる、縦60km、横40kmに及ぶ超巨大な群れ。1日に100万人分に相当する食料を食い尽くす。このままのペースで増殖すれば、6月までに群れのサイズは500倍になるとFAOは試算。食料不足に直面する人の数は2000万人にまで膨むとみられ、事態は緊迫している。

「ケニアにいる群れはすでに産卵して孵化し始めているので、2月に大量の幼虫の群れが発生する見通しです。3月から4月の雨季はバッタにとってはまたとない好適環境ですが、現地では作付けのシーズンと重なります。この時期に繁殖すれば、前例のない食料危機になると危惧されています」。いまがそれを食い止めるラストチャンスになるというのだ。

1年以上前に始まった悪夢の予兆


そもそも、なぜこれほどまでの大発生が起きたのか。

「原因は複数考えられますが、見落とされがちなのが実は1年以上前から別のエリアで大発生していたということです」


FAOが2019年12月に公開したサバクトビバッタの被害状況の地図。赤い円が成虫の群れの位置を表す。

上記の地図を見るとわかるように、バッタの大群は現在、アフリカ東部だけでなく、紅海を挟んだアラビア半島のサウジアラビアとイエメン、西アジアのパキスタンとインド国境付近にも広がっているのがわかる。

今回の大発生の発端は、2018年に遡る。アラビア半島に同年5月と10月、サイクロンが上陸。サバクトビバッタの生息地である半砂漠地帯が潤った。餌となる植物が増え、群れが発生。その後、2019年の冬にかけてアラビア半島で群れを形成しながら近隣に移動し、増殖を続けた。


FAOが2020年1月に公開したバッタの最新の状況。赤い円(成虫の群れ)が国境を超えて広がっているのがわかる。
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文=成相通子

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