経済・社会

2020.01.15 16:30

「人新世の歴史が終わる」いま、マルクスに学ぶ最後の闘いとは?

斎藤幸平・大阪市立大学大学院経済学研究科准教授(撮影=Irwin wong)

斎藤幸平・大阪市立大学大学院経済学研究科准教授(撮影=Irwin wong)

150年以上前、「弔いの鐘」とともに資本主義に終止符を打つ必要性を訴えたカール・マルクスだが、実は環境問題を視野に入れて資本主義の限界を指摘していた──。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授の斎藤幸平は、環境社会主義の視点からマルクスを研究した論文で、「ドイッチャー記念賞」を日本人初かつ史上最年少で受賞した。斎藤は、資本主義の生み出す格差が拡大し異常気象が続くいまの世界でこそ、もう一度マルクスに光を当てるべきだと唱える。未来への分岐点を前に、我々に最後に残された闘いとは。

気候変動、格差・分断、グローバリゼーション、デジタル革命……。世界は劇的に変化し、そのスピードはますます加速している。予測不可能な時代、私たちはいかに世界を捉え、行動すべきなのか。2020年の始まりを目前に、2019年12月25日発売のForbes JAPAN(2020年2月号)の第二特集で、世界の知の巨人や気鋭の経済学者たちにインタビューを実施。今回は、斎藤准教授に話を聞いた。


今年、ベルリンの壁が崩壊してからちょうど30年が経った。冷戦体制が崩壊した時、資本主義と民主主義こそが、「歴史の終わり」(F. フクヤマ)をもたらすと宣言された。だが、そのような見立てははたして正しかっただろうか?

いま、私たちの身の回りには、アメリカの牛肉、チリのワイン、フランスのチーズが食卓を飾り、中国やベトナムの廉価な労働力を使って生産された洋服やスニーカーがあふれている。気軽に海外旅行を楽しむ人も多い。先進国に限れば、より豊かで便利な生活をもたらすというグローバリゼーションの約束は果たされたかのようにみえる。

こうした生活の結果、人類の活動の痕跡が地球全体の表面を覆いつくし、「人新世」を生み出した。だが、人新世をもたらした大量生産・消費は膨大なエネルギーと資源の消費によって支えられている。

その代償は、気候変動という形でこの惑星の未来に暗い影を落としている。産業革命以降のわずか1度の上昇が、異常な熱波、大型台風、山火事、干ばつといった形で現れているが、このままのペースでの温室効果ガスの排出が続けば、4度以上の上昇が起きるとされている。

最新の研究によれば、2050年までに、海面上昇によって1.5億人の人々が住む地域が高潮時に浸水するようになり、生活困難となる地域が相当増えるという。そうした人々は「大洪水」によって環境難民となり、生活のために新しい土地への移住を強いられる。しかも、人々に移動を強いるのは海面上昇だけではない。氷河の消失は水へのアクセスを困難にし、干ばつは農業にも大きな影響を与え、人々は故郷を去る。
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文=斎藤幸平、撮影=Irwing Wong

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