気候変動、格差・分断、グローバリゼーション、デジタル革命……。世界は劇的に変化し、そのスピードはますます加速している。予測不可能な時代、私たちはいかに世界を捉え、行動すべきなのか。2020年の始まりを目前に、2019年12月25日発売のForbes JAPAN(2020年2月号)の第二特集で、世界の知の巨人や気鋭の経済学者たちにインタビューを実施。今回は、斎藤准教授に話を聞いた。
今年、ベルリンの壁が崩壊してからちょうど30年が経った。冷戦体制が崩壊した時、資本主義と民主主義こそが、「歴史の終わり」(F. フクヤマ)をもたらすと宣言された。だが、そのような見立てははたして正しかっただろうか?
いま、私たちの身の回りには、アメリカの牛肉、チリのワイン、フランスのチーズが食卓を飾り、中国やベトナムの廉価な労働力を使って生産された洋服やスニーカーがあふれている。気軽に海外旅行を楽しむ人も多い。先進国に限れば、より豊かで便利な生活をもたらすというグローバリゼーションの約束は果たされたかのようにみえる。
こうした生活の結果、人類の活動の痕跡が地球全体の表面を覆いつくし、「人新世」を生み出した。だが、人新世をもたらした大量生産・消費は膨大なエネルギーと資源の消費によって支えられている。
その代償は、気候変動という形でこの惑星の未来に暗い影を落としている。産業革命以降のわずか1度の上昇が、異常な熱波、大型台風、山火事、干ばつといった形で現れているが、このままのペースでの温室効果ガスの排出が続けば、4度以上の上昇が起きるとされている。
最新の研究によれば、2050年までに、海面上昇によって1.5億人の人々が住む地域が高潮時に浸水するようになり、生活困難となる地域が相当増えるという。そうした人々は「大洪水」によって環境難民となり、生活のために新しい土地への移住を強いられる。しかも、人々に移動を強いるのは海面上昇だけではない。氷河の消失は水へのアクセスを困難にし、干ばつは農業にも大きな影響を与え、人々は故郷を去る。