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イェール大学助教授の成田悠輔(写真=小田駿一)

与えられた目的に沿って、最適化を進めるだけの経済学から「やばい考え」は生まれない。

新進気鋭の若手経済学者、成田悠輔は、これまで手段に過ぎなかったデータによって目的や倫理を決める新しいモデルを提唱する。実現すれば、データが人類の生きる目的を決める日が来るかもしれない。彼の「幸福なデータ奴隷」状態は本当に幸福なのか?


オンライン動画配信サービスのネットフリックスで新年早々に公開された「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」が人気だ。テクノロジーが進歩した近未来のディストピアを描くドラマ・シリーズ「ブラック・ミラー」の最新作で、視聴者が主人公の行動を二択で選んでストーリーが分岐するゲームのような仕掛けが話題を呼んだ。

舞台は1984年のイギリス。主人公の青年は6歳の時に母親を列車事故で亡くした。自分の「ささいな選択」のせいで母親が事故に遭ったと自分を責め続けている。視聴者は、主人公が朝食べるシリアル食品の種類やバスで聴く音楽など、些末にも思える選択に迫られる。これでエンディングが変わってしまうかもしれないと思いながら一つ一つの選択をするのは、正直に言えば億劫な体験でもあった。

選択肢が多いことは、必ずしも幸福をもたらさない。イェール大学助教授の成田悠輔(33)が来る未来のあり方として提唱する理論は、自分の人生を機械とデータが選んでくれる「幸福なデータ奴隷」状態だ。自分の存在理由や目的さえも機械がデータから判断し選択すれば、人々は日常の小さな判断から解放され、真の幸福が訪れるという。

デジタル・エコノミストという奴隷

成田の専門は因果推論・計量経済学。東京大学大学院修士課程修了後、米マサチューセッツ工科大学で博士号取得。サイバーエージェントの研究組織「AI Lab」や経済産業研究所でも活躍する。

成田のようなデジタル・エコノミストと呼ばれる経済学博士号保持者の採用が米テック企業で増えている。例えばアマゾンは150人を超えるエコノミストを採用していると言われ、同社のウェブサイトには42もの募集中のエコノミストのポジションが掲載されている(2019年1月7日現在)。

アマゾンやグーグル、マイクロソフト、Airbnb、ウーバーといった大手企業だけでなく、中小規模のテック企業にもその動きは広がっている。優秀なエコノミストの雇用をめぐって企業間競争も激しくなっており、日本円で数千万から億単位とも言われる破格の給与が提示される学者もいるという。

なぜテック企業は経済学者をこぞって雇用するのか。デジタル・プラットフォームが普及し、広告オークションやマーケットデザインなどの分野で経済学の知識やスキルが応用できることが大きい。行動経済学を応用した消費者行動の分析から、オンライン広告の設計や収入予測、価格設定、事業買収、事業戦略など。テック企業のビジネスの根幹に関わる重要な役割を果たすようになっている。

経済学者にとっても、企業で働くことで現場の最新データにアクセスでき、実社会に直結する研究ができることは魅力的だ。ハーバード大学で教鞭をとりながらマイクロソフトで活躍した現スタンフォード大学教授スーザン・アセイのように、学術界での研究を続けつつ企業で活躍するケースも増えている。

ビジネス分野だけではない。17年の骨太方針で、日本政府は従来のOpinion-Based Policy-Making(意見に基づく政策立案)ではなく、政策の効果を定量的に評価するEvidence-Based Policy-Making(証拠に基づく政策立案)の推進を打ち出した。効果測定を通じて政策立案に関わる経済学者も多い。

文=成相通子 写真=小田駿一

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