──なかなか、日本ではそのようなユースケースが出て来ないですよね。
川原:そうですね。大学の話をすると、文科省から頂く「基盤的経費」が減少している代わりに、「競争的資金」という特定の目的に配分される経費の割合が増加しており、ある意味、研究者は「競争疲れ」しています。誤解を恐れずに言ってしまえば、未来のことを自由に考えるための「余裕」が研究者から失われていっている。「もしかしたら、5〜10年後、世界を変えるかもしれない」そんな研究に対して、「少なくとも5年は待ってあげますよ」というような「時間的猶予」を頂けると、大学の研究者の立場からすれば、非常に助かるなという思いはあります。
──メルカリとしても、大学と協働して、新しいモノを生み出していきたいという考えが強いのでしょうか?
濱田:そうですね。あくまで一例ですが、最近の事例で言えば、空気でふくらませることができるパーソナルモビリティ「poimo」の実証実験を実施しました。これは、「持ち運べるモビリティ」をコンセプトとして、ラストワンマイルをつなぐための手段として開発に取り組んでいます。この「空気」というのは、ソフトロボティクスの分野においては、先端的な研究対象の一つであり、外見上は「ローテク」なのですが、実は、最先端のテクノロジーが搭載されているという点も特筆すべきポイントかと思います。
──このような独創的な研究に取り組むための「時間的猶予」も無くなってきているのでしょうか?
川原:そうですね。国のプログラムで言えば、だいたい2年〜3年、最長でも5年で何らかの成果を残す必要があります。
──研究者からすると、なかなか2〜3年で成果を出すのは難しい、と。
川原:そうですね。2~3年で次のテーマに移ることを余儀なくされると、大きな仕事はできません。幸いなことに、ノーベル賞については、日本は毎年受賞者を輩出することができていますが、このような仕事は、結果が出るまでしつこく同じことにこだわって研究することが重要です。でも、それがますます難しくなってきています。