「急なお電話で失礼します。あなたの作品をWebサイトで拝見して、感銘を受けました。少しでも直接お話をさせていただきたく、明日の午後、そちらにお伺いしてもよろしいでしょうか」
翌日の午後、エマニュエルのスタジオの前に停まった漆黒のランボルギーニから姿を現したドイツ人こそが、「Ibex Collection(アイベックス・コレクション)」の発起人で代表のアルバート・シュテッテン(Albrecht von Stetten)だ。
予算の限度も、納期も設けず、写実主義のアーティストたちが「傑作」を完成させるまで、平均月収の3〜5倍の給与を支払い、創作活動の上で必要となる備品も全て支給するというプロジェクトを進めるアートコレクター集団が、ドイツ・アウグスブルクを拠点に活動するアイベックス・コレクションだ。
このプロジェクトに参画するエマニュエルは、ここで代表を務めるアルバートに初めて会った日のことをこう振り返る。
「アルバートが僕のスタジオに現れたのは、あまりにも突然のことでした。だから、その時直接見せることのできた唯一の作品は、すでに売りに出していた作品のコピーだけだったんです。でも、それを手にしながら、お互いにアートに対する思いを語り合った。互いの心が通じた感覚は未だに強く覚えています」
Emanuele Dascanio, "The Nature of The Universe", 2015-2019, Charcoal and graphite on paper, 250x250 cm
エマニュエルは、自身も知らぬ間にアイベックス・コレクションの参加アーティストの最終選考を通過していた。
アルバートに初めて会ったその日に、彼からプロジェクトの全貌と、その当時彼が手にしていた額の4倍にもなる給与を提示されたのだ。
「その瞬間から、僕はひとつの作品を安い価格で量産させるギャラリーオーナーとの契約から解放されたんだ」
現在、彼はフェイスブックを通して出会い、作品制作におけるミューズでもある恋人と、セルビア共和国の首都、ベオグラードに拠点を移し、すでにアイベックス・コレクション2作目となる「傑作」の作成準備に取り掛かっている。
完成させた傑作に費やした時間は、3年半に及んだ。