160倍超の狭き門を通過するアーティストは、他と何が違うのか?

Philipp Weber, "Morning Dew-Mona", 2015-2017, Oil on linen,190×250cm



このプロジェクトにおいて2つ目の傑作作成に取り掛かっているのは、エマニュエルだけではない。

ドイツのフランクフルトから列車で約1時間半の場所に位置する静かな街、カッセルにスタジオを構えるドイツ人アーティストのフィリップ・ウィーバー(Philipp Weber)も、最初の傑作を描き終え、次の傑作制作に着手し始めたうちの一人だ。


Philipp Weber, “Bless Resistance”, 2018-2019, Oil on canvas,130x110 cm

アイベックス・コレクションには、現在20人のアーティストが所属している。写術主義という、写真と見違えるほど精彩な絵画を手がけるジャンルにいることは共通しているが、一人一人の性格はもちろん、作品制作におけるプロセスやコンセプトは大きく異なる。

チーフ・キュレーターのキキ・キム(Kiki Kim)は前述のエマニュエルとフィリップのことを、こう語る。

「エマニュエルは、彼の作品の軸にあるコンセプトである“共創”をテーマにインスピレーションを膨らませ、それを作品にします。コレクターである私たちと一緒に食事をする時には、地元のロマンチックなレストランのディナーを予約してくるんですよ。一方フィリップは、作品のコンセプトとなる物語を描くところから絵画の制作をスタートさせます。一緒に食事をする時は、毎回手作りの朝食を用意して、スタジオへ招き入れてくれます」

フィリップが絵画を作る前に実現させる物語のスケールも、桁違いだ。

彼はまず物語のイメージを膨らませ、それをスケッチする。そのスケッチを元に、実際にその物語のワンシーンを撮影してから、絵画の作成はやっとスタートする。

「Lady in Waiting(待つ女)というシリーズ作品を作った際には、5日間アイスアイスランドに滞在をして撮影を敢行しました。二人のモデルに、ある空想の王国の王女と、彼女の次に権威をもつ女性を演じてもらい、その様子を、普段はVOGUEなどのファッション誌で仕事をしているカメラマンに撮影をしてもらったんです。それを、特殊なプリンターでキャンバスと原寸大のサイズで出力して、やっと絵画の作成が始まりました」

フィリップは、絵画を描き始めてから、さらに膨大な時間を費やす。1日平均して12時間をスタジオで過ごし、8時間はキャンバスに向か合うという。

すでに完成させた傑作のオイル作品は、デッサンから何層も手を加え続け、最終的には9層ものレイヤーになった。

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文=守屋美佳 写真提供=Ibex Collection

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