店舗の1階と2階の空間をゆったりと使い、名和晃平、小松美羽、桑田卓郎、舘鼻則孝など、グローバルに活躍する錚々たる日本人現代アーティストの作品が並ぶ。銀行というとこれまで殺風景な空間を見慣れていたせいか、どこかのギャラリー、はたまた高級ホテルのロビーにでもいるかのような印象だ。
銀行の業務内容とは無関係に思える現代アート。なぜ銀行の店舗に、第一線で活躍する現代アーティストの作品が展示されているのだろうか? SMBC信託銀行代表取締役副社長の野田浩一、企画の発案者である商品企画部アート企画推進担当の岩崎かおりに話を聞いた。
──そもそも「アートブランチ」を企画した意図というのはどんなものだったのしょう?
野田:ずばり当社のブランディングです。金融界は、差別化が難しい業界です。どうすれば知名度を向上させて、差別化することができるのかを日々考えてきました。
──なぜブランディングにアートをと思ったのでしょうか? 信託銀行は富裕層の顧客が多いと思いますが、実際にアートブランチが始まって、反響はいかがですか。
野田:営業担当がお客様に投資信託をお勧めするような時には、富裕層の方々はすでにあらゆる同業者からオファーを受けているものです。それとは違う観点で、話題や情報を提供できることが大切なのです。そして、その1つがアートだと思っています。
お客様との関係が良くなれば、自然とビジネスは生まれます。ですから、まずはアートをお客様と近しくなる手段にしたいと考えています。アートをきっかけとして、面白い人だなと思ってもらえたら、いずれそれがビジネスにつながる。
今回の「アートブランチ」で、こういった取り組みに力を入れている銀行があるということを一般的に知ってもらう。それに対して「いいね」と思ってもらうのがブランディングで、それを目指しています。
岩崎:実際に店頭のアートをきっかけにお客様との会話が生まれたという報告もありました。アートをきっかけに、お客様の趣味や好きなものまで、深いところまで知ることができます。
──商品をプッシュするだけではなく、逆にお客さんの方から興味を持ってもらうということですね。アートは、ブランディングだけでなくお客さんとのコミュニケーションの媒介ともなり、柔らかいコミュニケーションのきっかけともなる。
野田:はい。そして、これはパブリックな存在の銀行としてのメッセージでもあります。30年前に私が入社した当時などはとくにそうでしたが、その頃から「銀行は民間企業であるが、社会性、公共性を失ってはいけない」とずっと教わってきました。
社会や公共に貢献するというのは銀行にとって大切なミッションです。もっと日本のアート市場やアーティストを育成したいですし、海外に流出するようなことの多い作品を日本に残したい、社会の公器としてそれを推進するのだという銀行としてのメッセージも込められています。