──野田さん自身はもともと銀行でアートを扱うことに関しての考えはあったのですか?
野田:実は、まだ若い頃に配属された事業調査部で、融資の注目先として「画廊業界」を採り上げたレポートを書いたことがあったのですが、一瞬でボツになりました。日本ではまだアートが資産として認められていないと痛感した経験ですね。
岩崎:金融業界とアートの関係に関して言えば、金融機関がお客様のアートを担保にお金を融資して、アートの購入のためのローンを組むという「アートファイナンス」のビジネスモデルは、海外の金融機関ではすでに実施されています。しかし日本ではまだ実現していません。アートに携わる者として個人的にはこのアートファイナンスは、日本のアート界活性化に寄与するのではと思っています。
──ということは今回のアートブランチの企画は、将来的にはアートファイナンスにつながると考えてもよいのでしょうか?
野田:いえいえ、目下の目的は、先ほど申し上げました通り、当社のブランディングです。もちろんアートファイナンスについても将来的には考えていきたいと思っていますが、それはあくまでこのアートブランチの成功の先にあることです。
小松孝英の作品、『外来種群蝶図』(左)、『水辺群蝶図』(右) 生物多様性をテーマに描かれている。
──世の中のIT化が進むなかで、リアルの「場」によって提供される価値の重要性が見直されていると感じます。今回のアートブランチは、リアルな「場」として、銀行の店舗というもののブランド価値を最大限に引き出そうとする施策だとも感じるのですが。
野田:おっしゃる通りで、オンラインバンキングなどが普及する中で、銀行の店舗というものの価値をどこに見出すか、それを最大限に活用するにはどうすればよいかというのは行内でも重要な課題です。今回のアートブランチを通して、銀行店舗にはこういう価値や使い方があるのではないかという一つの解答になったのではないかと思っています。
名和晃平『PixCell-Biwa♯2(Mica)』 アジア人で初めてルーブル美術館のピラミッド内に作品を展示されたアーティスト、名和の代表作であるPixCellシリーズの作品。
──今回のアートブランチが企業としてのブランディングであるとするならば、今後も長く続けていくことも大切になりますね。
野田:アートブランチという今回の試みは、好意的な評価を受けつつありますので、こういうものが積み重なっていくと「銀行も面白いところがあるね」と見方が変わってくると思います。ファンが増え、お客様が増えると嬉しい。次回以降も続けるためには相応のコストがかかりますし、投資もしなくてはいけない。そのためにもお客さまをはじめ、みなさまの反響が必要だと考えています。
野田副社長が、社内に眠る有為な人材である岩崎氏を社内イノベーターとして登用し、日本の眠れる資産でもある現代アートに光を当て、かつ銀行のブランティングも行っていく。「灯台下暗し」とはよく言ったものだ。人材もアートもすぐ足元に、宝の山は実は目の前にあるのかもしれない。アートブランチは来年3月27日まで開催されている。