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2019.11.01 07:00

銀行が現代アートのギャラリーに。意外な組み合わせの先に見えるもの


──アートは国の財産とも言えますが、その保護や文化の活性化を公器としてどこが担うのか。行政なのか、銀行なのか、ということですね。

岩崎:日本のアーティストの作品が海外に流出してしまっているのは懸念すべき点だと思います。海外のコレクターには、「日本のアート作品はクオリティーが高いのに安い」とよく言われます。これには、日本で最もよく売れるのは100万円以下の作品で、なかなか高く売れないという事情があるためです。

野田:まずはアートというものの価値の高さについて再認識される必要があります。それは銀行の内部に関しても同じで、今このような形で会社の内に向けても啓蒙しています。


舘鼻則孝『Heel-less Shoes』。花魁の高下駄から着想を得たヒールレスシューズは、舘鼻の代表作としてレディー・ガガに着用されたことでも世界的に知られている。

将来的にはアートファイナンスにつながる?


──銀行は堅いイメージがあって、現代アートとの掛け合わせというのはとても意外に感じるのですが、そもそもアートブランチをやるきっかけはなんだったのでしょう?

野田:これには、ちょうど社内でアートに詳しい岩崎さんとの出会いがありました。

岩崎:私自身はもともとアートが好きで、アートのコレクターでもあるのですが、世界中のアートフェアやギャラリーに足を運ぶなかで、日本の市場と世界の市場の格差を痛感していました。

“The Art Market 2019”Art Basel and UBSによると、アートの市場規模は、イギリスと中国がそれぞれ世界の20パーセントほどのシェアを占めるのに対して、日本はわずか3.6パーセントほど(アート東京調べ)。GDPにおいては、日本はイギリス、中国との差はそれほどまでに開いていません。日本のアート市場がこれほど小さいのはおかしいと感じ、市場の活性化のために何かできないかと考えていました。

もともと社内でプライベートで30人ほどの有志によるアートクラブをつくり、定期的に集まってアートの見識を深めていました。そんななかで、アートクラブのメンバーが副社長と引き合わせてくれ、今回実現した「アートブランチ」の企画を提案しました。

日本では現代アートに触れる場はなかなかありません。美術館でも若手でグローバルに活躍するアーティストの作品はそもそも展示していないという状況です。普段接する機会がなければ知るきっかけも関心を持つこともない。銀行は誰でも入れるパブリックな場所でもあるので、そのメリットを生かした取り組みができないかと考えました。アートブランチは、当行、お客さま、そして社会にとっても良い取り組みではないかと思っています。

──まさに三方良しですね。副社長として野田さんは最初どんな印象を岩崎さんに持ちましたか?

野田:こんな人がなんで銀行にいるのだろうかと思いましたね(笑)。アートに詳しいだけでなく、ギャラリーや美術界とのネットワークもある。こんな貴重な人材がいるならその人を活用しない手はないと、人事に掛け合って商品を企画する部に配属しました。


桑田卓郎『青空もも子』 桑田の作品は、伝統的な技術に基づきながらも圧倒的なオリジナリティを有すると評価を得ている。
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文=瀧口友里奈 写真=Rang

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