アートを投資と捉える人に、アートの女神は微笑むのか?

コンセプチュアル・アートの先駆者、 ソル・ルウィットの《Irregular Tower》世界最大の現代アート・フェア「アート・バーゼル2016」でのアルフォンソ・アルティアコとコンラート・フィッシャー・ギャラリーの展示。※文中で紹介した作品とは関係ありません。

アート価格が高騰するにつれ、アートの経済的側面について聞かれることが多くなった。そこで、アートを収集する上で知っておいたほうがいい、アート独特の経済的特性をいくつかご紹介したい。

アートがリスクヘッジ資産として優れているのは間違いない。欧米のプライベートバンクが、資産の5〜20%をアート、ワイン、競走馬といったPassionate Investment(情熱的投資)に勧めるポイントもそこにある。いずれもモノなので、金融資産に対するリスクヘッジになる。それも土地、石油などよりも、金融資産に対する独立性が高い。アートは手数料が高いので短期売買には向かないが、固定資産税もかからないので、世代を超えた資産形成には向いている。

その実力がいかんなく発揮されたのが、リーマンショック直後だった。土地が担保として全く機能しなかった中、オークション会社の絵画担保ローンには借り入れの申し込みが殺到した。

さらに、アートは基本的に持ち運び可能だ。島国に育ち、安全と水はタダという感覚の日本人にはピンとこないが、流浪の民、政変による財産の没収の経験を持つ世界の多くの国々の人々にとって、これは大きなリスクヘッジなのだ。

より大きな視点で言えば、文明に対するリスクヘッジでもある。乾隆帝の書をメトロポリタン美術館に寄託しておけば、国を追われた時のリスクヘッジになるだけでなく、西洋文明が衰退するような危機にも対応できる。

一方、単に投機対象としてしか捉えない人に、アートの女神はなかなか微笑まない。それには、アート取引の特性が深く関わっている。

まず、転売目的の投資家と分かった瞬間に本当によい作品はまわってこない。門外漢に対する単なる意地悪に聞こえるかもしれないが、実は経済原理にもかなっている。なぜならば、名画の価値がわかる上顧客は、作品の質に対して最もプレミアムな価格を支払うし、将来その名画を売る際には再び扱わせてくれるので、さらなる取引に繋がるからだ。
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text by Yasuaki Ishizaka

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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