160倍超の狭き門を通過するアーティストは、他と何が違うのか?

Philipp Weber, "Morning Dew-Mona", 2015-2017, Oil on linen,190×250cm



世界三大美術館のエルミタージュ美術館があることでも知られる、サンクトペテルブルクで活動を続ける、ロシア出身のアレキサンドラ・ティモフィーブ(Alexander Timofeev)は、アイベックス・コレクションのアーティストの中で、誰よりもアートに人生を捧げているような人物だ。

「誰もが私の作品を見て、一目でロシア人作家であることに気づくようですが、サンクトペテルブルク美術大学を卒業後は、20年間ベルリンで活動を続けてきました。ロシアは当時、現代アートシーンでは遅れを取っていたので、拠点をベルリンに移す必要がありました。僕にとっては、私生活での幸せより、アーティストとして高みにいくことが何よりも重要。決して現在の自分に満足することのない気持ちが、アートを続ける原動力になっています」

彼の両親も著名なアーティストであり、アレキサンドラは5歳から絵を描き続けてきた。その才能を認められ、世界最高峰の美術大学としても知られるサンクトペテルブルク美術大学では、特待生としての教育を受けてきた。

現在、彼はサンクトペテルブルクにあるかつての宮殿をスタジオとして活動を続けている。


Alexander Timofeev, “Temptation”, 2016-2018, Oil on canvas, 200x200 cm

アレキサンドラの自身に対するストイックさは、アートから離れた場面でも明らかになった。一度、デイビッドとキキと3人でそれぞれ10キロずつ痩せるという計画を立てたことがあった。3人の中で、唯一期限内に10キロの減量を成功させたのが、アレキサンドラだったという。

デイビッドも、アレキサンドラ含め、アイベックス・コレクションに所属するアーティストたちを、真のビジネスパーソンだと形容する。

「彼らの任務遂行能力と、セルフマネジメント能力の高さは一流です。ただ絵画のスキルが高いだけでは、このプロジェクトを共にすることはできない。私たちが設定した審査基準が世界最高レベルであるからこそ、応募式のコンペの実施は考えていません。私たちのプロジェクトに参画をして欲しいと願っているアーティストは、こちらで既に目星をつけています。本人たちへは、まだ一切連絡をとっていませんけどね」

最後に、このプロジェクトを率いるアルバート・シュテッテン(Albrecht von Stetten)のことを紹介したい。

アルバートは、これまでの人生をヨーロッパ最大級の家族農園の経営に充ててきた。その農園を手放した膨大な額の資金を元手に、2014年からアイベックス・コレクションを始動させたのだ。

「アイベックス・コレクション」という名は、アルバートの先祖の代から続く、アートコレクションの名前からインスパイアされたものだ。

幼い頃から自宅にはたくさんの絵画が飾られていたこともあり、長年アーティストになりたいという思いはあったが、ビジネスがあまりにも大きくなってしまったため、アルバートが経営を継ぐことは免れなかったのだという。

現在のアート中心の生活は、長年の夢がようやく形になったものだ。

「今、この活動がお金になることは一切望んでいません。目標があるとすれば、これから数百年後、僕らが全員いなくなった世界でも、アイベックス・コレクションが歴史に名を刻んでいること。精巧なカメラがいくらでもあるこの時代に、リアルを求めて、無制限のお金と時間をかけてアーティストたちが作り上げた作品の裏にある執念とも言える情熱と物語こそが、私たちが後世に伝えるべきものだと思っています」

文=守屋美佳 写真提供=Ibex Collection

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