彼らの背後ではさまざまなハーブ類が栽培されており、カラシナやアンバーピー、ブラジリアンパセリなどの新芽が室内のアクセントになっている。アラバマ出身で身長190cmのカージアスは違和感なくその場に溶け込み、ゆっくりした南部訛りでとつとつと話す。
一方で助手たちは、熱を加えずに香味を抽出するロータリーエバポレーターや、どろりとした濃厚な香辛料を完全に透明な液体に変えてしまう強力な遠心分離機、8口のIHヒーターといった研究所ご自慢の機器を早口で紹介する。
「我々は、香味の科学に真剣に取り組んでいます」
世界最大のスパイス・メーカーで働き始めて16年になるカージアスはそう語る。この研究所も当初はより簡素なキッチン風になるはずだったが、彼が計画を白紙にしたそうだ。
「我が社が打ち出す今後への見通しを、業界全体が注視しています。費用は抑えればいいというものではないと、私は担当者に言って聞かせました」
カージアスが3年前にCEOに就任して以来、マコーミックの売上高は26%増の54億ドルとなった。ボルティモアの近郊を本拠とする同社の株価はほぼ2倍に高騰した。日用品の業界におけるこの市場パフォーマンスと名高い創造性が評価され、カージアスはForbes U.S.が初めて選定した「米国で最も革新的なリーダー」ランキングの37位にランクインしている。
この間の成長のほとんどは、2年前に英国のレキットベンキーザー・グループの食品事業を42億ドルで買収したことによってもたらされたものだ。この買収額はマコーミックが130年の歴史の中で行ってきた企業買収の費用の総計をも上回っていた。投資家たちはこれを嫌がり、買収が発表された直後には株価が1日で5%も下落している。
しかし振り返れば、正しい判断だった。カージアスはマスタードやバーベキューソース、ホットソースなど、数あまた多のスーパーマーケットの定番商品を手中に収めたのだ。その甲斐あって、調味料業界では10位の地位にあったマコーミックは、クラフト・ハインツに次ぐ2位へ浮上した。
カージアスは2003年にマコーミックに入社し、13年に消費者向け事業部門のトップに指名された。倹約的な「ゼロベース予算」で知られる投資グループの3Gキャピタルが280億ドルでハインツを買収したのと同じ年だ。その2年後、3Gは有名投資家ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイと手を組み、ハインツとクラフトを550億ドルかけて合併させた。