「こう考えました。『誰だって3Gほどうまくはコストを削れない。うちは正反対の方向に向かおう』とね」
そう振り返るカージアスは、ブランド投資を強化する計画を胸に、16年にCEOに就任した。「フランクス」ブランドのレッドホットソースはレキットベンキーザーとの取引の肝だった。この酸味のあるホットソースは米国で大人気を誇り、バッファロー・チキンの味を引き立てることでよく知られる。
カージアスは自社の専門家集団にそのレッドホットソースの香味を抽出させた。成分の把握が完了すると、マコーミックは数々の新製品を投入した。グリル肉にまぶしたりディップに加えたりする粉末タイプのミックス調味料や、チリ・ライム味のようなフランクス・ブランドの新たなソースなどがその一例だ。
下ごしらえを済ませたバッファロー・ウィングのラインアップをひっさげ、本格的に冷凍食品に進出した。 「フランクスは非食品企業に縛りつけられていた」 とカージアスは言う。そして同ブランドを世界で最も売れるホットソースにしたいのだと話す。
「我々はレキットよりも香味の科学をよく理解しています。なにせ、これが本業ですからね」
次世代を見据えた「Z世代シフト」
こうした動きに隠れてはいるが、マコーミックは近年の加工食品業界ではとんと聞かれなくなったことも成し遂げてきた。既存事業の売り上げ増だ。
直近の四半期で3%増と伸び率は微々たるものだが、横ばいか減少が大方の業界にあっては目を引く(クラフト・ハインツは今年に入ってすでに170億ドル近い減損処理を行った)。22%のEBITDA(税引前利益に、特別損益、支払利息、減価償却費を加算した値)マージンは業界でも最高クラスといえる。
マコーミックの瓶詰スパイスは米国のほとんどの家庭に置かれているし、オールドベイなどのミックス調味料はいまも売り上げの多くを占める。スパイス市場でのシェアは米国内で40%、世界全体でも20%に及ぶ。しかし日用品の事業は低成長にあり、賢明なカージアスが注意を注ぐのはそうした数字とは別の方面だ。
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味覚や食品の消費パターンの変化によって、いまやこの業界の定番の戦術が書き換えられつつある。今日の米国で最も多様性に富んだ消費者グループを構成する「ジェネレーションZ(7〜22歳)」は、スパイスが大好きな世代だ。彼らは多種多様な味覚に対し、旺盛な購買力を振り向ける。
調味料メーカーにとっては朗報なのだが、一方で米国の若者は食品を買う際に原材料の「透明性」をも重視する。マコーミックの場合はコストの安定化のために世界の90カ所以上に工場を分散させていることから、どの製品をとってもラベルに「フェアトレード」や「単一産地」と表示することは困難だ。「グルメ」ブランドの製品の原材料を有機栽培に切り替えるだけで、3年の歳月を費やした。