昔は「パロディのネタにされる」のは、広告業界では歓迎されるべきことではなかった。少なくても送り手側がそのことを意識してコンテンツをつくることは、まずなかっただろう。
しかし、昨今では、むしろ「マネされる」ことは、広告戦略としては狙うべき1つの重要な要素となっている。マネされて、パロディ(英語圏では「Spoof」といわれることが多い)が数多くつくられれば、それは自らのメッセージが拡散する(つまり広く多くの人に届く)ことを意味するからだ。
2014年のカンヌライオンズで、フィルム部門グランプリを始めとして数々の賞に輝いた「VOLVO TRUCKS」の「THE EPIC SPLIT(英雄的開脚)」というウェブ動画は、その最たる例だ。
5日間で2000万回再生
世界的に有名なアクションスターであるジャン・クロード・ヴァンダムの顔のアップから、その動画は始まる。神妙な面持ちで、ヴァンダムが「自分はさまざまな危険なシーンをこなしてきた。そのおかげで、いまの自分がある」といった内容を語っている。バックにはエンヤの癒し系音楽「オンリー・タイム」が流れ、カメラは徐々に引いていく。
そうするうちに、見る側は、ヴァンダムの両脚の立っている場所が、バックで並走する2台のボルボ・トラックのサイドミラーの上であることがわかってくる。さらにカメラが引いていくと、2台のボルボ・トラックは徐々にその間隔を空け、ヴァンダムの開脚がギリギリに達し、水平になった位置で間隔を保ちながら、そのままバック走行を続ける。
そこに「この映像は、プロのドライバーにより実際に走行して撮影されたものです」という趣旨のテロップが入る。新しいボルボ・トラックのハンドル操作の安定性をメッセージするためにつくられたこのウェブ動画は、公開わずか5日間で、再生回数が2000万回を超え、その年最大のヒット作品となった。