カニエ・ウェスト、奇想の系譜と10億ドル「スニーカー帝国」(後編)

カニエ・ウェストのプロダクトへの強いこだわり、並外れた審美眼は10億ドルの「スニーカー帝国」に結実した。彼の奇行と創造性の謎に、前後編で迫る。(前編はこちら


彼のキャリアはしかし、奇行では崩れない。そして彼は自分の情熱を切り拓き、利益を上げてきた。とりわけスニーカーに関して。

『Air Yeezy(エアーイージー)II』がリリースされ、ナイキでの売り上げが花開くと、ウェストはナイキから道楽半分のセレブ扱いをされていると感じるようになった。「エアジョーダンに匹敵する衝撃をもたらした初めての靴だったんだ。そして俺はもっとすごいことをしたかった」。ウェストは語る。

「それにあのころ、ナイキは靴に対してセレブへのロイヤリティーを払うのをやめた」(ナイキはこの件についてコメントするのを断った。ただ、この契約について詳しい他のふたつの情報源も、ウェストにロイヤリティーが支払われなかったと証言している)。

ウェストはしかし、自分のブランドの所有権を維持し続けてきた。アディダス社の幹部がウェストの不満を風の噂で知り、彼をドイツへ招いた。ウェストは、このころからマネージングを受けていたスクーター・ブラウンの助けを得て前例のない契約を結んだとみられる。

この契約を知る複数の情報源によると、売り上げの15%のロイヤリティーに加えて、広告宣伝に対する報酬という内容だった。それにひきかえ、マイケル・ジョーダンはブランドの所有権を保持していないにもかかわらず、ロイヤリティーは5%程度とみられている。

ウェスト最大のブレイクスルーは『Yeezy350』だ。彼の審美眼と、アディダス社のブースト・テクノロジー(ランナーに効果的にエネルギーを還元するとされる技術)が融合したことで、トレーニング・シューズはハイファッションとなり、ロートップ・スニーカーが再びクールになった。

Yeezy350の「靴ひものない靴なんてクソだ」といわんばかりの攻撃的で先鋭的なスタンスが、ランニングシューズに200ドルを出すファンの心を多くつかんだ。アディダスはYeezyの売り上げを公表していないが、ウェストは16年、数分で4万足も売れていると口にした。

「神のご加護に恵まれたおかげで、マーク・ザッカーバーグに(金を貸してくれと)ツイートしていたところから(今日の立場まで)来られた」。彼は今では自分を笑い飛ばすことができる。「みんなこう聞いてくる。『どうしてマーク・ザッカーバーグにあんなツイートしたんだ?』。だから、こんなふうに答えるんだ。『やつがエイリアンを探してるって聞いたからだ』」。

エイリアンといえば、ウェストのクリエイティブなプロセスを本当に見たければ、『スター・ウォーズ』の惑星タトゥイーンを訪れる必要がある。ルーク・スカイウォーカーが幼年期を過ごした家に着想を得たウェストは、同じく質素な美学を持つプレハブ住宅のデザインに、チームで取り組んでいる。
次ページ > 「低所得者向け住宅ユニット」を目指して

文=ザック・オマリー・グリーンバーグ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=有好宏文 構成=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN 真のインフルエンサーとは何だ?」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事