ウェストに正確な靴の数を尋ねると、自分の創造物が数字にされたことに、彼は腹を立てる。「愛を計算することはできない」。彼は説明する。「おばあちゃんがこっそり街にやってきてサプライズでケーキをくれたときに、バターや砂糖のことを聞くか?」。
おばあちゃん?
「計算不能な快楽をもたらすためにつくっているんだ」。彼は続ける。「だから、靴のことを何らかの数に換算するよう俺に求めるってことは、おばあちゃんにケーキのレシピをくどくど聞くのと同じことだ」。
「数字人間」になるなとウェストは求めるが、しかしYeezyの誰かが、そうならざるをえない変曲点に差し掛かっている。彼のブランドは、エアジョーダンと同じく、限定販売数と驚くべき新商品によってファンを獲得してきた。
NPDグループのアナリスト、マット・パウエルによると、エアジョーダンは近年、特別感を若干失いつつある。ナイキが他分野で減少した供給分を、ジョーダン・ブランドで補い始めたからだ。「セレブリティ商品を売れさせるのは希少性です」。彼は言う。「だから、あまりにどこでも手に入るようになるとビジネスモデルがクラッシュする」。
アディダスは、このことを心得ているようだ。「我々は引き続き数量を厳密に管理し、Yeezyの19年の売り上げがアディダス全体の予想売上高の大きな割合を占めないようにする」。同社のCEOカスパー・ローステッドは言う。「ブランドの熱が冷めてきているわけではない。我々は数量管理と製品のライフサイクルに厳密なアプローチをとっているのです」。
言い換えれば、彼は、特別感を犠牲にして売り上げを伸ばそうとしない。その代わり、驚くべき新商品によって熱狂を生み続けようとしているのだ。今年5月にリリースした『glow─in─the─dark 350 v2』は、一部の国では午前6時の販売開始だったにもかかわらず、即座に完売した。
アメリカでは既に発売されていた光を反射するバージョンの『Yeezy350』を求めて、6月にはモスクワに数ブロックの行列ができた。さらに型破りなコンセプトも控えている。例えば、藻でできた靴のアイデア。ゴミ処分場で時間とともに微生物によって完全に分解される、あるいはある種のバクテリアをスプレーするとすぐさま分解されるという。
最も興味深いのは、ウェストがいまだにYeezyを100%所有していることだ。「このパートナーシップから生み出される美のすべてを、俺たちはまだ目にしていない」。ウェストは言う。
「俺たちが経験したのは、きらめきのほんの一部だけだ」。