9割が輸入食材の国、シンガポールで話し合われた「地産地消」

第3回インターナショナル・シェフズ・サミット・アジア(ICSA)


実は、1960年代のシンガポールは、国土の約20%が農地だった。しかし、急速な経済の発達に伴い、都市化が進むに連れて、農地は急速に失われていった。

将来的に訪れる可能性のある食糧危機を見越し、こんな現状を変えようと、シンガポール政府も「30 by 30」というプロジェクトを打ち出し、2030年までに食料自給率を30%まで上げようと考えていることも背景にある。


パネルディスカッションにて ウォン・ジン・カイ(一番右)とリーガン・ハン(左から3番目)

食事客の先入観を変える料理

ただ、国産の食材を使うことに伴う困難は、シンガポールだけのものではない。実際問題、豊かな食材に恵まれた国であっても、「地元の食材を使うことは簡単ではない」とアジアの多くのシェフたちは口にする。その大きな問題の1つは、人々の先入観だ。

今回、ハンと共にコラボレーションディナーを行なった稗田は、台湾産食材を使い始めた時期をこう振り返る。

「日本の魚などを使っているうちは、台湾のお客様たちは来てくれていましたし、お任せコース6500台湾元(約2万3000円)という値段も、高いとは言いませんでした。しかし、山に海、変化に富んだ地形の台湾には豊かな食材が揃っている。台湾で信頼できる生産者を探して提供し始めるようになりましたが、日本の魚より劣っているという先入観からか、客足がガクッと減りました」

稗田は、台湾で魚の神経絞めの方法を紹介するイベントを行うなどして、魚の質の上昇にも務めた結果、今では台湾でも神経絞めを行う水産業者が増え、地元食材の質の向上にもつながった。

台湾の魚も、処理や調理を工夫すれば美味しく食べられるということが認知されるようになり、現在は約95%を地元の食材でまかない、稗田の店、祥雲龍吟も、ミシュランで2ツ星、アジアのベストレストラン50でも31位にランクインするなど、安定した人気を誇るレストランとなった。

このように、今の時代を切り拓くレストランは、ただ食事客の好みに合わせるというだけでなく、食事客の先入観を変え、料理界の未来をつくっていく料理を提供していくという役割も担い始めているのではないだろうか。

文・写真=仲山今日子

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