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シンガポールの点心店「瑞春(Swee Choon)」のファミリー。左から姉のジョイス、トニー・ティン、甥のアーネスト

このところシンガポールでは、人気店にもかかわらず、閉店を余儀なくされる飲食店の話を聞くことが多い。理由は、後継者の不在だ。

アジアの食都としても知られるこの街でも、いま、伝統的な食の継承者が不足するという問題が浮上している。

人気の点心店を継ぐ3代目とは

シンガポールの分離独立以前の1962年から営業を始めた点心店、「瑞春(Swee Choon)」。伝統的な広東風、上海風の点心を供するだけでなく、シンガポールのローカルフードの麺「ミースア」をアレンジしたり、揚げだし豆腐からインスピレーションを受けて日本料理の要素なども取り入れたりしたオリジナルの点心もあり、夜になると長い行列ができる。

福建省出身の父親が始めた小さな店を受け継ぎ、現在は2代目のトニー・ティン(62歳)が店を切り盛りし、香港の料理学校で点心づくりを学んだ姉のジョイス(64歳)が厨房を仕切る、家族経営の店だ。


ファミリーの系譜について説明するトニーさん

点心づくりは専門性の高い仕事で、「瑞春」の厨房では、広東風と上海風の担当に分かれ、合計30人の職人が働く。すべてが手づくりで、麺も手打ち。そんなスタイルも、人手不足から変革が迫られている。

多くのシンガポール人がそうであるように、子供たちがより良い生活を送れるようにと、両親は教育には非常に力を入れる。結果、子どもたちは、医者や弁護士など収入の多いホワイトカラーの仕事に就く。

トニーとジョイスにはもう1人兄弟がいるが、その子供たちは、7人が医者で、2人が弁護士、2人が会計士だ。「それは親としては幸せなことだけれども、父から受け継いだこの店を、継承する次の世代がいない」とトニーは嘆く。

店は繁盛し、ひと間だけだった店は、両隣の店を買い取り、6倍にまで拡張していた。後継者がいないからといって、やすやすと「手塩にかけた店を他人に売り渡すことはしたくなかった」ともいう。


父のレシピの肉まん

しかし、この店の後継者に名乗りを挙げた人物がいた。28歳と若い甥のアーネストだ。彼は、「ビジネスモデルを変えることで、この仕事をサステイナブルなものにしたい」と申し出たのだ。

アーネストは、大学で財務を学び、会計事務所で働き始めたものの、肌に合わず3カ月で退職。もともとコーヒー好きだったことから、さまざまなフレーバーのコーヒーを用意し、スタイリッシュなパッケージに入れて、BtoCで直接販売するスタイルのビジネスを立ち上げた。

最近ではスーパーマーケットなどでも扱われるようになり、コーヒーのカプセル10個入りのパッケージが7ドル、オリジナリティのある味わいと、それほど高くない価格帯が受けて、人気は上々。このようなビジネスを軌道に乗せたアーネストなら、店を任せられると、トニーは彼を3代目とすることに決めたのだ。

文・写真=仲山今日子

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