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2019.11.16 19:00

9割が輸入食材の国、シンガポールで話し合われた「地産地消」


一方で、ハンは、シリアル・プラウンと呼ばれる、シリアルの衣をつけたエビ料理をイメージし、通常使われる大きなエビを小エビに置き換えてフライにし、オリジナルのボックスに入れて、エビのビスクスープの上からゲストが自分でふりかけるような遊び心のある料理を提供した。


エビのビスクスープ

ハンの料理は、地元の食材をどう使うかを考えて構成されている。2014年のオープン時から、バージョンアップしながらつくっている、チリクラブをイメージしたひと皿は、冷たいチリソースアイスクリームに、ほぐしたシンガポール産のフラワークラブを載せたもの。

通常、チリクラブには、大きくて見栄えのするスリランカやインドネシアのマッドクラブが殻ごと使われるが、ハンの料理ではフラワークラブの甘味をダイレクトに感じてもらうため、カニの身をほぐしてココナッツの果肉と合わせて使っていた。

安全性が高いシンガポールの魚

ハンが使う魚介類のいくつかは、「フローティングフィッシュファーム」と呼ばれる生簀から運ばれたものだ。この方法で魚介類を養殖する業者は、5年前にシンガポール国内に116あったが、3年前には96にまで減少するなど、後継者不足などの理由から年々減少している。

ハンに魚介類を提供する養殖業者、ア・フア・ケロンのウォン・ジン・カイは、そんな現状に風穴を開けるビジネスを編み出した。

「そもそも、多くの魚介類を輸入しているマレーシアとシンガポールだが、同じ海域にあり、海水の質も変わらないうえ、衛生管理の厳しいシンガポールでは、抗生物質を使うのも政府の許可がいるため、基本的に無抗生物質、さらに政府のチェックが定期的に入り、安全性が高い」とカイは語る。

一般にはまだあまり知られていなかったその安全性を打ち出して、一般家庭へのデリバリーを始め、今は販路をレストランにも拡大し、さらにファームトゥーテーブル(養殖場からテーブルへ)をテーマにしたレストランもオープンしている。

「価格はマレーシア産と比べて10%高い程度で、輸送にかかるコストやCO2排出も少なく、環境に配慮したものでもある。今は十分な財力がないため確立できていないが、収益が上がれば魚のフンを浄化するシステムも入れ、サステイナブルな漁業を確立していきたい」

ハンは、ア・フア・ケロンの魚介類を使用するだけではなく、世界からシェフやジャーナリストが訪れる度に、この養殖場の見学を行うなどして、シンガポールでも国産の魚介類があることへの周知を図り、地元の業者をサポートし、「すべてを輸入に頼る国家」のイメージを変えようとしている。
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文・写真=仲山今日子

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