テーブルには越前和紙を厚さ20ミリのアクリル板に立体的に閉じ込め、海のようなイメージで浮かび上がるようにした。テーブル内にはブルーやパープルに光るランプが仕込まれ、パーティのように楽しさを演出しているのだ。
キッチン(筆者撮影)
澤山はその意図をこう語る。「伝統を積み上げていくと、『どうだ』と言わんばかりになり、何も言えなくなってしまいます。新しいものを加えることで、古いものの新しい表情を引き出してくれます」。緩急をつけることで、緊張感が抜けるのだという。
査定額は約5倍。インテリアデザイナー主導で収益増
澤山によると、物件を購入した時と完成してからの査定額は5倍ほど高くなったという。改修にかかった費用を差し引いても、改修前の査定額を上回る。「デザイナーが入ることで、建物そのものの価値は必ず上がります。改修後の空間までこだわるインテリアデザイナー主導型の改修が、日本でも広まっていく」と澤山は語る。さらにホテルとして客室を貸し出すことで、収益を生み出す物件にもなる。
実は、この建物の1階には、1週間以上の滞在から、Airbnbで貸し出している部屋がある。桃乃八庵とは別枠で、和室と洋室で、印象も全く異なる2部屋だ。すでに外国からの客4組が滞在している。
Airbnbで貸し出している2部屋(上下、筆者撮影)
現在、新たに熱海で2件の「キュレーションホテル」のプロジェクトが進行中だ。第2弾のホテルは、2020年1月に完成を目指す。2件とも、桃乃八庵を見学に訪れたオーナーたちが、そのコンセプトに共感し、同様なホテルとして改修してほしいと声がかかったという。
「古い家をマイナス資産として手放すのではなく、宿泊施設として蘇らせることで、リフォームやリノベーションのモチベーションになる。少しずつ事例を増やして、熱海でキュレーションホテルを増やして行きたいですね」。
これからは、熱海市内のMOA美術館や、市の文化財である起雲閣、旅館などと組み、アーツ&クラフトツーリズムを推進していくつもりだ。埋もれている重要文化財の発掘や再生にも期待をかける。澤山による、キュレーションホテルを起点につなぐ、ネットワークづくりは始まったばかりだ。
キュレーションホテルの伝道師となる澤山乃莉子(筆者撮影)
次回は、インテリアで暮らしを豊かにするヒントを伝える澤山のインタビューをお届けする。