エントルピーが開発したシステムでは、人工知能(AI)と顕微鏡画像のデータベース、それにブランド側から提供を受けた追加データが使われている。検査スタッフは、特殊な設定が施されたiPhoneで、偽造が疑われる製品の写真を撮り、約20万件の独自アイテムと照合して鑑定する。「科学捜査分析のような感じだが、結果はあっという間に出る」とスリニヴァサンは話す。
同社の顧客にはまもなく、ドバイ首長国の経済開発省(DED)が仲間入りする。エントルピーのシステムを導入し、ドバイ市内で販売されている製品の真偽を鑑定するのだという。
DEDは2019年9月、エントルピーのシステムを導入するという覚書に署名した。DEDで企業コンプライアンスと消費者保護を統轄する部門の最高責任者ムハンマド・アリ・ルーター(Mohammad Ali Lootah)は、DEDは年内にシステムを導入し、来年2020年には範囲を拡大していく予定だと話す。
「DEDは、偽造品検証の精度を確保するべく、エントルピーのシステムをツールのひとつとして導入する」とルーターは述べる。「DEDの検査官は全員、本物と偽造品を見分けられるよう、ブランドが行う研修を受けている」
信用や評判を重く受け止めるドバイのような都市にとって、偽造品は慎重に扱うべき問題だ。「ドバイでは、偽造は大きな問題になっていない。しかし、私たちはつねに、知的財産権が適切に保護される都市であろうと心がけている」とルーターは述べる。
ところが、他の情報筋から入手した証拠は、偽造品の問題が当局側の主張よりも大きくなっている可能性があることを示している。先述した2019年3月公表のOECD報告書は、「偽造品ならびに海賊版は依然、複雑な貿易ルートをたどって取引されており、一連の中継地点が悪用されている」と指摘。「そうした中継地点である経済国の多くは、巨大な自由貿易圏を構築しており、国際貿易の重要拠点だ」
この条件に当てはまるのがドバイだ。ドバイは、湾岸地域のみならず、アフリカ東部や南アジアなどの近隣地域、そして数々のフリーゾーン(貿易や外国投資への優遇措置が講じられている経済特区)にとって、商業の中心地という役割を果たしている。