だから、「なんか良い気がする」「どうも心地が悪い」というサインは見逃しがちで、もしかしたらそこにあるチャンスや可能性を失っているかもしれない。それは自分にまつわることでも、仕事や社会にまつわることでも。実は、積極的に気づくことは、世の中をもっと豊かにするのではないか──。
多角的に「食」に取り組むシェフ松嶋啓介と睡眠をデザインできる世界を目指すニューロスペースの小林孝徳による対談、ラストは情報化社会における感覚について(第1回、第2回)。モデレータは、スタートアップスタジオquantumと博報堂でクリエイティブディレクターを務める原田 朋。
原田:僕は松嶋さんの「塩なしラタトゥイユ」の教室に参加した時、初めて「今まで食べてたものが、ちょっと味が濃かったんだ」と気づきました。塩を使わなくてもこれだけ美味しいんだと。知識として頭で気づくのでなくて、やっぱり体験して気づくことが大事なんだなと思いました。
松嶋:あの教室は、松嶋啓介という人間が、時間と空間を使ってやっている──「間(ま)」なんです。生きていく中でどれだけ「間」を取れているか、「人」ではなく「人間」になれているかを、みんな忘れている。ビジネスマンは、ずっとビジーが継続しているから、自分の間がない。
原田:なるほど……。そうした「間」で自覚できる食に比べると、眠りは気づくのが難しいと思いますが、自分の眠りに気づく方法はありますか?
小林:自分の睡眠欲に忠実に従って、何の制約もない中で寝て、目覚ましとかはかけずに自ら起きた時は、自分に必要な「時間」が取れていて、睡眠の「質」もいい。起きた時の爽快感や脳がふゎ〜ってひらけている感じ。それが「これが自分の理想の眠りなんだ」と気づくカギです。
重要なことを言うと、実はアカデミックな研究領域でも「いい眠り」がなにかは解明されていないんです。どういう脳波の時にどういう神経回路が働いてそれがいい眠りにつながる、みたいなことってわかってない。いい眠りを導く方程式がまだ存在せず、ほとんど現象論で語られてしまっている。
ただ、感覚ベースでも人はエビデンスや客観性を求めるんですよね。説得力を増して、ビジネスにしたいから。サプリ売る時に、“〇〇大学の教授お墨付き”と載せたがるみたいな。
でもそういう情報や客観性、エビデンスだけじゃなくて、自分の体で感じる主観をもっと大事にしたほうがいい。そういう観点で言えば、朝スッキリした感覚、昼間に眠気がない感覚、あと夜自然と眠くなる感覚は、説明抜きに自分の体が求める睡眠ができているサインですね。
だからキャンプとか最高なんですよ。自分の体が太陽と地球と同調して、明るくなれば普通に起きれるから、睡眠のリズムができて、暗くなると眠気がくる。東京に比べて情報も多くないから、自分の感覚に敏感になれる。そういうところで最高の眠りを体感して、松嶋さんの料理で味覚を知って……自分にとっての理想を体験できたらかなりいいですよね。