情報まみれ、エビデンスまみれ。自分の感覚を忘れてないか?

(左から)松嶋啓介、小林孝徳、原田 朋


原田:確かに、美味しいとか気持ちいとか、体感や体験よりも「これは栄養素として〇〇が何g入ってる」とか「何時間寝た」とか、情報に置き換えて理解しがちですよね。我々、特にビジネスパーソン。

ビジネスでエビデンスを求める癖が自分の思考回路になって、エビデンス主義の生き方になっている。何か異変に気づいても、「私がこう感じるだけだからな……」と、自分で自分の感覚の価値を下げてしまっている。

小林:あまり大きな声では言えないですが、僕のところにも「いい眠りをとれる商品を開発したから、いいエビデンスを作りたいんです」みたいな話がたくさんきます。でもこれって結局、売りたいがためにやっているから人間らしくない。

原田:情報も感覚も、どっちも必要ですね。人は情報から商品を知るので、やっぱり情報を可視化して伝えなきゃいけない。でもそれだけではダメで、本当は何かを使った時に自分がどう感じるのかを大事にするべきなのに、「最近気持ちよく起きれないけど、健康診断の数値も正常だしまあいいか」となったり。

不快なことがあるのに、数値を過信して、それに目を向けてない。どうしたらいいんでしょう、やっぱキャンプとか?

quantumと博報堂でクリエイティブディレクターを務める原田 朋

小林:東京って情報まみれじゃないですか、人工的な。しかもそれらを、だいたい目でしか認識しない。でもキャンプに行くと、情報は整理されていないから、読み取ろうと五感が研ぎ澄まされる。昔はそれが主流だったんですよね。

ただ資本主義社会である今、「感覚ベースで生きてください」っていうのは無理だから、バランスが重要だなって思います。データやエビデンスとか重視しつつも、こういう忙しい情報社会だからこそ感じる力、人間は本来持っているじゃないですか。

原田:いちビジネスパーソンとして最高のパフォーマンス出すためには、自分の状態や感覚に敏感でないといけない。それに、売り手側として考えても、これから世に出ていくべきもの、ウケそうなものは、そういう体験や感覚を取り戻す商品であったりサービスである気がしますね。情報デトックスというか、スマホを持たない旅やホテルも出てきていますね。

松嶋:世界に目を向けると、イスラムには断食があります。断食は食だけど、デジタル断食っていうのもあっていいと思う。

それに、夜更かしも睡眠の断食なんですよね。断ってみて初めて大切さに気づける。いまの時代って豊かすぎるから、何かを断食しないといけない。情報に対する断食っていうのが、キャンプなのかもしれない。

シェフ松嶋啓介

原田:たしかに、ずっと情報を食べ続けてるとも言えますよね。情報でお腹いっぱい。たまにそれをシャットアウトしてみるということですね。

松嶋:でもそれは都会でもできないことはなくて。例えば、少しずつ色づいてきた木を見ながら何を感じ取りますかって話です。あぁ秋になってきたかなとか、今年は去年よりも紅葉が早いなとか、そういう風に気づく能力を持つことが大事です。

じゃあ体も自然と向き合えるようになるには何が必要か。やっぱり脳に服従させた状態ではなく、心が落ち着いた状態に持っていくことかなと思います。「聴」って耳に心って書いてありますよね。

さっきもここで鳥が鳴いていましたが、心安らぐと、日常でも鳥の鳴き声や虫の音も聞こえるわけですよ。心が落ち着かないと聴けないんです。
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編集=鈴木奈央

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