そんな中で、「社員がよく眠れていることが、企業価値として評価される時代がやって来る」と語るのが、企業に睡眠習慣デザインプログラムなどを提供するニューロスペースCEOの小林孝徳だ。彼は社員の睡眠確保の重要性を強く訴える。
そんな小林の考えに賛同するのは、ビジョンとコンセプトの面でニューロスペースを支援してきた、新規事業創造のスタートアップスタジオquantum(兼)博報堂のクリエイティブディレクター原田 朋。彼も社員の睡眠には気を使っており、社内での挨拶やちょっとした会話をする際、部下に睡眠の質を確認するほどだという。
両者が語る中で出てきたのが、睡眠も資本であるという「睡眠資本」の考え方だ。お金や設備のみが資本であるという「労働資本」の考え方は、次第に時代遅れになっていくという。両者が考える、これからの時代における良い企業のモノサシを探る。
「よく眠れてる?」という声かけが、良いチームの秘訣になる
小林:ニューロスペースの仕事で多くの会社を訪ねる中で感じることがあります。睡眠をはじめとしたプライベートの時間を尊重する企業やチームは、とても明るくポジティブな雰囲気を持つ印象があり、また、集中力も高く、高い評価や結果を出せている傾向にあるんです。
原田:私は普段、働く中で反省していることがあります。業界風土もあり、部下に会うと、挨拶として「忙しい?」と聞いていたんですね。だいたいは元気に「いやー、忙しいです!」と答えてくれる。でも「忙しい?」という問いかけは本来、過労の危機を察知するはずのもの。これが毎日のあいさつになってしまうと、忙しい方がいい、という空気がつくられてしまいます。
なので最近、挨拶を「よく眠れてる?」に変えてみました。……社員の反応は「どうしたんですか、変ですよ、なんかありましたか」だったんですが(笑)。まさに何かあったというか、自分の意識が変わったんですよね。
上司が、働かせる方向だけではなく、きちんと休めているか眠れているかというような目線を持つことで、部下の心理的安全性を保てる。その結果、良いチームづくりにつながっていく。そのビジョンを信じているので、そもそもの業務量に気を配りながら、コミュニケーションも試行錯誤しています。いわば「新しい挨拶」のプロトタイピング、テストマーケティングですね。
小林:これまで睡眠はプライベートで行うことであり、会社が管理するものではない、という考え方が主流でした。しかし最近、昼間の過ごし方や夜のアルコール摂取量など、寝ている時間外の活動が睡眠に大きく反映されることが分かってきました。
昼間の過ごし方によって眠りが変化し、眠りの状態によって昼間のパフォーマンスや集中力、心理状況などが決まってくる。つまり、「よく眠れているか?」という質問は、総合的に昼間どう過ごしたか、なおかつ夜によく休めたかというとても本質的な問いかけであり、これからの時代にかけるべき言葉ですね。