松嶋:「地獄絵図」ってあるじゃないですか。お坊さんに教えてもらったんですが、地獄の「獄」の字は、両脇で犬が向き合って言い合っている状態。仏教ではこれが地獄だと。だから、人が話を聞かなくなって言い合っている職場があったら、それは地獄なわけです。地獄とは、言い合っている場所。心があったら聴く。
忙しいって「心が亡い」って書きますが、だから忙しい時代の人は話を聴かない。最近はみんな吠えまくってますからね、地獄です。
原田:最近クリエイターの世界でも、ファシリテーション型の方が求められてるという話があって、それはまさに発信型じゃなくて受信型の人なんですよね。人の話であったり感情であったり、そこにあるものをうまく引き出してまとめていける人。「聴ける人」がいま求められている。今の話とつながる気がします。
SNSの普及で誰でも簡単に発信できる時代になったから、世の中に言葉が増えていった。誰も聞いてくれない言葉たちも多くなった。その中で意味があるものを捉えられる人、聴ける人が求められているなと思う。
小林:確かに。断片的な情報が溢れる中で、そこからクリエイトするのはAIじゃダメで、人しかできないわけじゃないですか。バランスが悪いんでしょうね、情報が多すぎる。でもどうやったらその力を得られるのか。感受性を鍛えられるのでしょうか。
原田:自分が住む場所と離れたところに行くと、異常に受信機能が高まりますよね。知らない世界で、本来は危険だから、身の回りに何があるか目や耳をこらす。そういう意味で、旅は感覚を鍛える手段にもなりますね。
仕事において、大企業だと特に、毎日のスケジュールや先の予定が決まっていたりするから、自分で判断しなくていいことも多かったりする。すると、自分で考えることが少なくなる。だから、僕の場合は会社の外に出て、外の人と会って受信能力を高めるようにしています。
小林:僕も経営者だからこそ、判断すべきときにできるように、外へ出て人と会わなきゃいけないなと思ってます。だからニース(松嶋さんの本拠)行きたいなとも(笑)。でも海外へ行かずとも、この前、いつも通る道の"移動手段"を変えるだけでもいろんな発見がありました。
原田:会議室を出ないといけないってことですよね。会議室にいるとエビデンスばかりの話になってしまうし、言いたいことを言うだけになってしまう。参加者が外から受信していればまだいいけれど、そうでなければ似たような人の集まりで、似た情報がぐるぐるするだけになる。
松嶋:料理の世界の話だと、東京ではお店に“営業”が来てくれるから、食材の情報が紙切れなんです。本来なら自分で市場や生産者のところへ仕入れに行かなきゃいけなくて、そこで初めてクリエイティブ欲求が生まれてくるんですが。待ってるだけだと「作りたい」ってならない。「作らなきゃいけない」になる。
例えば何かを生み出すとして、みんな外側から興奮させて「沸」かせることが多いですが、本来は心の底から「湧」いてくるものじゃないといけない。形のないところから湧き上がるエモーショナルなものが少ないなと思う。
クリエイティブの仕事でも、「これを作ってくれませんか」という依頼と、「まずは会社に来てもらえますか?」から始まるのでは、アウトプットが違うはずです。
原田:生産性やクリエイティビティを上げるという中で、限られた時間の中でアイデアを強制的に沸かせるような発想法もあったりしますが、それは「湧」くではないですね。ビジネスパーソンは会議室、会社の外へ、もっと自ら仕入れにいかなきゃいけない。いつか、睡眠や味覚に気づくキャンプを企画したいですね。